日本軍とドイツ軍 どうしたら勝てたのか、どうやっても負けたのか?
学研 2014年
ぐうの音も出ないほど面白かった。これほど「事の本質」をずばり徹底的に明らかにした書物を私は他に――少々コンセプトの違う「小失敗」シリーズを除いて――知らない。
私の中で「第二次世界大戦には本当は勝ち筋はあったのではないか」という長年の疑問がようやく解消した。「勝ち筋なんて無かった」のだと(*1)。これまで抽象的に語られて来た第二次世界大戦の敗因が、適切な統計データと、そして単なるデータに留まらない分析・考察により容赦なく丸裸になっている。
つまるところ英米ソは資源・地の利・国力に恵まれた「持てる国」である一方、日独は「持たざる国」であり、その時点で決定的な優劣があったことがようやく腑に落ちた。
それに加えて連合側は
・多正面作戦をしない、味方とは連携するといった戦略の健全さ
・敵を知り、己を知るといった当たり前の努力を怠らなかった
・総力戦体制に円滑に移行できた
・規格の統一といった兵器システム全体の効率化
・味方(英国)のシーレーンを防衛できたこと、敵(日本)のシーレーンを破壊できたこと
等の面においても枢軸側と違って誤りが少なかったため、番狂わせの起きようも無かったのだとようやく腑に落ちた。
細かい話についても――工学者である三野正洋の「小失敗」シリーズとはまた違った着眼点で書かれており――興味深い話題が多かった。
また、日独の違いに関する議論も非常に興味深かった(*2)。
*1 連合側が、自らの本来的な優位を打ち消すほどの致命的な間違いを犯し、なおかつ枢軸側が犯した多くの間違いよりさらに多くの間違いを犯してくれれば話は別だろうが、そんなうまい話があるわけがない。
*2 語るとキリがないので一つだけ。それは「負けっぷり」の違いだ。降伏しても敗軍の将なりに威厳を保ち、敗戦国なりに国益を保とうと努力したドイツ軍将校たちと、肩の荷が降りたような態度を隠さない日本軍将校たちの違い。また、撤退戦において自国民を守ることに全力を尽くしたドイツ軍と、満州や沖縄でそれを怠った我が軍の違い。遺憾ながら、同じ負けるにしてもそういうところで本物と偽物の違いが露呈したと言わざるを得ない。そういうところが今日まで続く戦後体制における日独の地位の違いにつながっているのであろう。