読んでいない懸念が発覚したので、読んでみることにした。
結果、本書そのものを読むのは恐らく初めてだと分かった。ただし主要な収録作品が『太陽の黄金の林檎』および『刺青の男』と重複しているため、ほぼ新味は無かった。
重複作品はやはりいずれも秀逸だと再確認できた。
それ以外の作品は――狭義のSFとは言えないものもあり――あまり興味が持てなかった。いちおう狭義のSFは次のとおり。
『この地には虎数匹おれり』:総合的に見て普通。途中まではE・F・ラッセルにありそうな話だが、結末がブラッドベリらしいとは言える。
『いちご色の窓』:これも普通。『火星年代記』には入らないようだ。『火星年代記』の中にあれば中の下程度に位置していたであろう。
『竜』:これまた普通。ショートショートであり、SFよりむしろ恐怖小説の文法。こういう作品も書くのだな。
『霜と炎』:唯一印象深かった。寓話化・抽象化が進み過ぎているのが欠点だが、「世代型宇宙船もの」の亜種――「未知の無人惑星に漂着した宇宙船もの」とでも言おうか――として鮮烈なエネルギーを持っている。未知の放射線(?)等の環境により人々の寿命が数日になる等の非現実的な設定を抑え、普通に具象的なSFの範疇で創作してくれれば超一流の作品に仕上がったとも思うのだが、それはブラッドベリのスタイルではないので仕方がない。
なお、好みや刷り込みのせいもあるかもしれないが、『太陽の黄金の林檎』および『刺青の男』との共通作品を読み比べるとどうしても本書側の訳文は品質が落ちるように思える。