ノートンの代表作の一つとされていることは認識しつつも魅力を感じず、序盤を読んだだけで長年放置していた。今回はノートン熱の高まりを利用して再挑戦してみた。
やはり面白くない。何と言うか、砂を嚙むような感じで全く味気が感じられず、世界にも登場人物にも全く入り込めない。第一部は辛うじて読んだが(これでも大きな進歩ではある。かつては主人公が魔女と出会うあたりまでしか読めていなかった)、二・三・四部は流し読みをするのがやっとだった。これが女史の代表作扱いされているのは理解しがたいが、人により感受性は異なり、私には感じられない何かを感じられる人も結構いるという事なのだろう。
「味」、「感じ」では議論にならないのでいちおう言語化し得る点で批判するならば、
1.バローズ及び亜流作品のセオリーである、舞台の風俗、文物、歴史、生態系の(しばしば冗長な)紹介が奇妙に欠如しており、作品世界への没入の足掛かりを欠く。
2.良く分からんジェンダー思想のようなものが根底にあるのが察せられ、不愉快とは言わないまでも当惑はしてしまう。アンドレ・ノートンの娯楽作品にそういうのは求めていないのだが……。
いちおう良い点も指摘しよう。舞台が単純な「魔法の世界」ではなく「複数の世界からの科学技術や人材の流入も示唆される、複雑な情勢の世界」であり、魔法が万能というわけでもない――という設定は秀逸である。惜しむらくはその秀逸な設定が全く活かされているように見えないことだが……。
原文と見比べたわけではないが、厚木淳の翻訳は特に悪くはない。
武部本一郎画伯のイラストは、画伯の画業の中では下の上程度と評したい。どうもSFアートとして魅力や説得力があまり感じられない。先生もこの作品にあまり魅力を感じなかったのではあるまいか。
邦題の『魔法の世界エストカープ』はあまりよろしくない。エストカープはこの別世界にある国の一つである。然るに、この邦題ではこの別世界の名称がエストカープであるという誤認を招く(と言うより、編集部自身が誤認していたのではないか)。もう少し考えて邦題を付けて欲しかった。
とりあえず、最小限のノルマは達成したという事で、このシリーズをこれ以上読み進めるのは勘弁してもらおう。