Famille-sans-nom (1889)
大矢タカヤス訳
彩流社 2016年
【経緯】
恥ずかしながら事実上初めて読んだ。実は、本書が刊行されたことはほぼリアルタイムで把握しており比較的すぐに図書館で借りはしたのであるが、何となく気分が乗らず1・2ページで落伍していたのである。それを過去十年(!)で2・3回繰り返し、おそらく3・4回目の挑戦となる今回はたまたま気分が乗って序盤を突破した結果ようやく精読で通読するに至ったものなのである。
【感想】
なかなか印象的だった。ヴェルヌ作品としては稀に見る酷薄な緊張感に貫かれており、並々ならぬ気概で書かれたことが読み取れる。ヴェルヌが「民族自決」をテーマとすることは珍しくないが、特に本作は自民族フランス人が主役ということで普段以上に力が入ったのであろう。
カナダ史についてはおぼろげな知識しか持っていなかった典型的日本人(いちおうインテリですが)としては、大変勉強にもなった。
文章、ストーリーテリング、人物造形も優れておりヴェルヌ中期の非SF長編小説の中では良作の部類だと思う。本作が百年以上も邦訳されずにいたのは全くもって遺憾なことであり、ようやく邦訳してくれた訳者と出版社を称賛したい。
ただしあえて一つだけ苦言を呈させてもらえるならば、作中でやけに1.6kmの倍数が登場するのはよろしくない。マイルをkmに換算したのだろうが余計なお世話をされて白けるし、どうせ換算をしてくれるならどうしてそれ以外の複雑怪奇な度量衡や通貨単位を放置するのか。