存在自体は昔から認知していたが(*1)、これまで読む機会に恵まれずにいたところ、国立国会図書館の個人送信サービスで読めることに気付いて読んでみたものである。
とても良い児童文学であり、とても良い未来SFであった。作者は(実にフランス的に)人類の知性と人間性を信じている。しかし常に気を付けていないと怠慢や悪意や過酷な自然の側が勝利を収めてしまう――そういうメッセージを感じ取った。これはぜひ現役の児童時代に読みたかった。
また、もう少し狭い観点から見ても、「最終戦争後の地底都市もの」のチュートリアルとして秀逸である。このジャンルに必須な要素が全て、年少の読者に理解しやすい形で完備している。やはり現役時代に読みたかった。
あえてテクニック的なところに苦言を呈するならば、ポール&ルーク兄弟とベルナール&エリック兄弟というクオドラプル主人公体制には若干無理があると感じる。群像劇的、相乗的な効果が上がっていないとは言わないが結局どの少年の内面も(外面も)中途半端に紙数を費やした割には充分に描き切れてはいない。誰か一人、例えばルーク少年に的を絞った方が得策だったのではないか。またプロット的にも地上との関係性は何とか描き切れているが、もう一つの地底都市(?)との問題は消化不良なのが惜しまれる。
これは抄訳なのだろうか? 同じ全集に入っている『五次元世界のぼうけん』(これは現役時代に読んだ。これもまた名作である)はかなり極端な抄訳であり、それが功を奏している(不要に複雑でテーマの掴みづらかった原作をシェイプアップして名作に生まれ変わらせている)のだが、本書がもし抄訳だとしたらその効果は逆効果に思える。
*1 第一に、非英語圏海外SFは大好物なので。第二に児童SFも嫌いではないので。第三に、『五次元世界のぼうけん』と同じ全集に入っていたので。