『文明崩壊』が面白かったので、物凄く今さらながら再読してみた。
面白かった。流行っていたころに一度だけ流し読みはしていたのだが、当時は全く本書の真価が分かっていなかったことに気づいた。「なぜ、ユーラシア大陸(特にヨーロッパ)が世界を制したのか」という究極の疑問に、次のように明快に解答を出している。
・ユーラシア大陸には家畜化に適した大型獣がいたが、他の大陸にはほとんどいなかった。そこで差が付いた。
・ユーラシア大陸は東西に長いので気候の近似性が高い地域が長く連続しており家畜、栽培植物、そして付随的に技術や情報や人材も大陸全体に伝播しやすかった。一方、アメリカ大陸・アフリカ大陸は南北に長い上に地理的障壁が厳しくてそうはいかなかった(オーストラリア大陸は全域が不毛なので論外)。そこでさらに差が付いた。
・ユーラシア大陸では人口密度の高さと盛んな畜産が疫病を産み、疫病への耐性を産んだ。一方アメリカ大陸はそうではなかったので、新旧世界の接触時、アメリカ大陸先住民は病気に抵抗できなかった。
・ユーラシア大陸の中で他大陸に進出したのがアジアでなくヨーロッパだった理由は、近世、ヨーロッパは政治的に統一されていなかったので、改革家は一つの国に受け入れられなくても他の国に行けば新しいことを試せた(例えばコロンブスの西回り航海)。一方、中国は政治的に統一されていたのでそうは行かなかった(例えば明朝の鎖国政策)。
ぐうの音も出ない説得力。こういう良書――いや、名著――がヒットしたということは、日本の読書界も捨てたものではないな。
ただし、敢えて言えば語りが冗長なのが欠点だと思う。これ、然るべく書けばページ数は半分になるのではないだろうか。
あと、これほど「何でも知っている」大先生が、日本において漢字が使用されている意味を理解していないようで驚いた。第13章「発明は必要の母である」の節「受容されなかった発明」に「異なる発明がどのように受容されたかを調べてみると、そこには少なくとも、四つの要因が作用していることが分かる。(中略)二つ目の要因は、経済性より社会的ステータスが重要視され、それが受容性に影響することである。(中略)日本人が効率のよいアルファベットやカナ文字だけでなく、書くのがたいへんな漢字を優先して使うのも、漢字の社会的ステータスが高いからである。」とある。あきれたものだ。表意文字・表語文字には表音文字とはまた違った利便性があるし(それぞれの良さはほぼトレードオフだろう)、同音異義語(特に、漢語に由来するもの)が多いという日本語の特性を考慮していない。自国文化の礎となっている表音文字こそが至高という狭く浅く硬直した考えが丸見えである。しょせんアメリカ人ということか。
日本語版を出すならここだけは改定して欲しかった。本全体に影響を及ぼす誤りではないが、白ける。