先日の『大地への下降』に引き続き、サンリオSF文庫制覇プロジェクトとして読んでみた。
結論としてはあまり面白くなかった。
アイディアは悪くない。24世紀。最終戦争か何かで社会秩序が一度崩壊して、復興した後の世界。人類は超高層建築「都市体(アーバンモナド)」を無数に建設し、その中に引きこもって生きていた。都市体では、プライバシー否定、私有財産否定、そして多産礼賛の奇妙な文化が栄えており……という舞台設定はいくらでも伸びしろがあるように思える。
しかしどうも面白くない。都市体はもちろんユートピアではないがガチガチのディストピアかと思えばそういうわけでもないし、金星植民者(その価値観は現代人と近いようだ)視点で話が進むかと思えば半端なところで退場するし、「外」に出てみた男の冒険はずいぶんと不完全燃焼なまま終わってしまう。感情移入できる登場人物は特にいないし、軸となる登場人物も特にいない。群像劇にすることで何らかの効果を発揮しているかと言えば、疑問がある。つまり単純に小説として出来が良くない。
SFとして、あるいは文学としてのテーマ性も微妙だ。結局何がテーマだったのか? 少なくとも私の読解力では何も読み取れなかった。何だろう。人口過剰は良くないということだろうか? 良く分からない。
あと無粋なことを言うようだが、750億の人口を食わせるだけの食糧を「外」が生産できるのか? 生態学的に可能かがまず疑問だし、可能だったとしても安定供給するシステムを作れるのか? 特に、「外」の人間がそのような労働に従事する必然性が薄い。そういうところの説得力の無さがサイエンス・フィクションとして致命的によろしくない。まあ、この作品はスペキュレイティブ・フィクションであり内面を描くのが主旨だと言われてしまえばそれまでだが……