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国会図書館デジタルコレクションでサンリオSF文庫が読めるようになっているのに気付いたため、手始めに未読のフランスSFを読んでみたものである。
大量消費社会と環境汚染が極致に達し政治も経済も混迷極まったある日、突如としてフランスで自動車の破壊運動が勃発。続いてタンカー破壊、重工業破壊、電子工業破壊、……が起きて先進諸国が何となく穏便にエコな社会に改革されてゆくというプロットは興味深い。しかもそれが明確な指導者も組織も綱領もなく、何となくうまく進む(破壊活動も無血で進む)のが興味深い。
しかし冷静に考えれば極めて複雑に依存し合った現代社会の産業構造が「何となく」で漸減的に解体できるわけがない。例えば自動車が無くなっただけであらゆるサプライチェーンが連鎖的に途絶し、大都市圏は1・2日で生存が困難に陥るのではないか? ことがうまく運ぶ根拠が何一つ示されないのが(英語圏流の狭義のロジカルなサイエンス・フィクションとして読むと)気になった。
またテーマである大量消費社会――後先考えない地下資源の浪費、後先考えない環境汚染、大企業による民衆の搾取を伴う――に対する批判はもっともであるが、あまりにも何のひねりもなくテーマが語られるのも気になる。
終盤の二転三転もあまり評価できない。
総合すると今一つだった。むしろ訳者による「あとがき」で紹介されている他の作品の方がはるかに面白そうだ。翻訳してほしい。