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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

K・H・シェール『宇宙船ピュルスの人々』感想

非英語圏海外SF好き、それもシェール好きと称しておきながら許されざることであるが、実は本書をまともに通読するのは初めてである。少年期に一度あるところで立ち読みしたことはあるのだが今一つ魅力を感じず序盤で脱落してしまい、その後古書店や図書館(開架)で見かけたりすることもなかったため何十年ものあいだ読まずに今に至ってしまった。今回はそれに気付いて反省して入手して再読してみたものである。

感想としては、残念ながら総合的に見て中の下程度だった。雰囲気(*1)やアイディア(*2)に優れた点も見られるがプロットが弱く(*3)テンポが悪く登場人物に魅力がない(*4)。『地球人捕虜収容所』や『地底のエリート』のような本物の傑作には遠く及ばない。

「訳者あとがき」にて松谷健二が
訳者あての手紙でシェールはこの作品を「私の最高傑作」とはっきりいっている。一読すれば、著者の自信のほどもうなずけよう。(P.246)
と述べているがこれは営業上のレトリックと理解すべきであろう。

実際、本書が売れなかったがために次に予定していた「忘れられた人々」の企画(*5)が流れてハヤカワに奪われてしまったのではなかろうかと邪推する。

*1 冒頭、ラトゥラ第二惑星での亀型準知的生命とのやり取りは実に迫真性があり、その先を期待させる。

*2 「地球連合と植民星連盟の二大勢力に分かれていつ終末的大戦争に陥るか分からない人類を、外部の敵(を無理やりにでも見つけて)によって一体化させる」というテーマはシンプルながらも考えさせられる。東西冷戦で二つに割かれてしまったドイツの作家だからこそ、なおさらこのテーマは迫真性を帯びている。

*3 「最高の軍人」がつまらない計略を成功させて得意ぶり、周囲もこれをもてはやす繰り返しが実に白ける。せめて一回にしておけば緩急・虚実を取り混ぜた策略家だと納得もできるが毎回それでは登場人物たちの知能程度が知れる。その陳腐な騙し合いが言わば物語の横糸なので、縦糸たるテーマが真価を発揮できていない。

*4 「最高の軍人」たる主人公も、「選りすぐりのクルーたち」も没個性で感情移入できない。あるいはそうなる前にポンポン殺されていってしまう。

*5 今回初めて知ったのだが「訳者あとがき」にて「このつぎには一九六七年の「忘れられた人びと」(Die Vergessenen)をご紹介できる予定である。」(P.247)とある。
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