- 月のプリンセス 厚木淳訳 1978年
- 月からの侵略 厚木淳訳 1978年
国会図書館デジタルコレクションにて久しぶりに再読。
記憶していたより遥かに深みのある、バローズとしては異色の作品である。「平和を望むなら、戦争に備えよ」という古い警句を忘れた人々の末路は悲惨であり、その失態を挽回するには莫大な犠牲が必要になる(この作中世界では月人を撃退するのに数百年の歳月と現代文明の喪失が代償となった!)というメッセージは全くもって迫真的で説得力があり、バローズが単なるバローズタイプだけの作家ではないことがようやく腑に落ちた。
そして第三部で描かれるジュリアン家とオルティス家の和解。これはバローズ世界においては類まれな快挙――非を認めて謝罪する敵など前代未聞だし、それを受け容れて許すような寛容さを持った主人公も前代未聞――であり、感動的である。
また、カルカール人に支配されたアメリカを描く第二部の陰鬱さは顕著であり、ディストピアSFとして評価に値する。
追記 ただし創元版については一つだけ苦言を呈したい。『月のプリンセス』の表紙絵は品質が低過ぎやしまいか。私の眼が曇っている可能性は否定しないが、武部本一郎の作品の中では最低最悪の一枚であるどころか、創元推理文庫SFマークの具象画の中でもワーストの部類に思える。