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わたしがこれまで読んできたSFマガジンは、諸事情により70年代が主体だった。60年代以前の巻については『復刻S-Fマガジン』とか、古本屋で一冊二冊とか、散発的にしか読んでいなかった。
そうであったところ、先日東京で時間があったので国会図書館に寄って黎明期から60年代のバックナンバーを系統的に貪り読んで来た。(いつの間にか、物理的な冊子を出してもらうのではなく、スキャン画像を端末で閲覧できる方式に変わっていて驚いた。世の中動いてやがるな。)
面白い。面白過ぎる。荒削りなところも散見されるが、まさかこれほどまでに面白いとは予想外だった。いくつか気づいた点を述べる。
1.スルー率の低さ・減点率の低さ
後の時代のSFマガジンだと
・興味が湧かないのでそもそも読まずにスルーしてしまう記事
・SF界の公器たるSFマガジンの品位を汚すゴミ記事
が時代を追うごとに増え、現在では誌面のほとんど全てを占めているわけだが、60年代だとそういう記事がほぼ皆無。ほとんどすべての項目が読みたくなるのだ。
2.編集部のセンスの良さ
そして、読んだ記事が実際に面白い。換言すれば(小説作品に関しては)作品選定眼が良い。(小説以外については)主題と寄稿者の選定眼が良い。つまるところ編集長の見識が高くセンスが良い。
3.ソ連SFの多さ
また興味深いのは「ソ連特集」みたいのをしばしばやっていることだ。70年代以降にもソ連・東欧作品が載った号はあるが、60年代は明らかにそれより頻度が高い。福島正実が、単純にアメリカSFを直輸入さえしておけば良いという姿勢ではなく、多様性を重視していたことが窺える(当時の文化人にありがちな安易な東側崇拝の臭いも感じられなくはないが……)。こりゃ確かに傑作選3巻ぶんくらいはすぐ貯まるな。
4.ハイブロウな作品の多さ
意外だったのは、ハイブロウな作品が初期からかなり多い。わたしとしては、『危険の報酬』みたいのは例外で、初期のSFマガジンはもっと素朴な作品が主体だとイメージしていたのだが、誤解であった。
5.荒削りさ
今日の出版物に比べると、(特に初期であればあるほど)驚くほど誤植が多い。またレイアウトも原始的で、なおかつ巻によってはコンテンツも貧しい。一言で言えば荒削りだ。だがそれがまた良い……
というわけで黎明期から60年代にかけてのSFマガジン――言い換えると福島正実時代のSFマガジンはべらぼうに熱気があり、センスが光り、SF者の心を沸き立たせる名雑誌だった。こりゃ確かにSFが日本に定着するわけだ。
「復刻SFマガジン第二期」として百数十冊全て復刻して欲しい。
追記:この日の本来の目的はトム・ゴドウィン、ゴードン・R・ディクスン、フィリップ・レイサム、レイモンド・F・ジョーンズ、アラン・E・ナースあたりの単行本未収録作品を読むことだったのだが、それらに関しては大半が期待外れだった。あと伊藤典夫の連載を読んでいたら「スペースオペラに興味はない。野田くんへの義理で先日一冊読んだ程度」などと書いてあって、若干ぎょっとした。そこまで言うか?
前々からから、一部の固有名詞(おそらく特記がないので英語圏の名前のはずだが)の原綴りが全く見当が付かず、疑問に思っていたところ、昨夜久しぶりに読み返したのを機に調べてみた。
Googleブックスよありがとう。
結論として、概して福音館書店の『ニワトリ号一番のり』における固有名詞のカナ表記は、やはり(最近の翻訳者のマジョリティ的なやり方と比べると)多少クセがあることが分かった。明らかな法則性としては最近のマジョリティでは「ッ」や「ー」を入れる可能性が高いところについて、原則入れない傾向が見られる。
いくつか具体例を挙げていこう。
【高難易度】
チェジロウ Chedglow なるほど。自分だったら「チェドグロウ」か「チェッドグロウ」とでも表記するところだが、たぶん滑らかに発音すれば「チェジロウ」みたく聞こえるのだろう。さらにググってみるとイングランドに同名の地名があるので、苗字としてもありえなくはない模様。……当然「二郎」とは関係なかった。
クラタバック Clutterbucke なるほど。自分だったら「クラッターバック」とするだろうか。……当然「倉田」とは関係なかった。
ルエリン・エファンズ Llewellyn Efans 「Evans」ならよくある姓だが、誤記ではなく本当に「Efans」と書いてある。……丁寧に訳書を読み直すと、85ページにこの人物はウェールズ人だとある。調べてみるとルウェリンというファーストネームもウェールズ名であるらしく、辻褄が合う。つまり「Efans」も英語姓というよりウェールズ語姓なのだろう。そして、この人物の奇妙な訛りはウェールズ語訛りなのだろう。ちなみに85ページのエファンズのセリフ
「ダンチスバーン船長が、航海士、」とエファンズがいった。この男のことばは濁音が静音になることがよくあった。「すんませんが、ダンチスバーン船長が、あれは大型ポートへ入れるんたといいました。そうてす、航海士」
の原文は
"Captain Duntisbourne, sir," Efans said, "if you please, sir, Captain Duntisbourne said she wass to go in the long-poat, yess, sir."
となっている。
【低難易度】
ダンチスバーン Duntisbourne なるほど。
トルズベリー Trewsbury なるほど。
エジワス Edgeworth なるほど。
ネイルズワス Nailsworth なるほど。
フェアファッド Fairford なるほど。
【おまけ】
フーキェン号 Fu-Kien 福建
マイザドン Miserden
ブラックゴーントレット号 Blackgauntlet