国土社 少年少女科学名著全集 8巻
1965年
訳:玉城肇・原光雄(*2)
中学生時代の愛読書(*1)。久しぶりに再読。やはりべらぼうに面白い。児童向けの科学・技術史書として最高の出来栄えだ。そして真の名著は時代が変わっても陳腐化しないし再読に耐える――むしろ繰り返し読めば読むほど味わいが深くなる――ことを改めて実感した。
また、若かりし日の自分がどうして本書を好んでいたのか、その理由の一つが年の功のためかようやく言語化できた。すなわち「ファクトを明快に伝えるというノンフィクション書の本来の目的が完璧に果たされているのみならず、読み物として文学としても素晴らしいから」である。
これらの名著が書かれ、出版され、翻訳されて自分の認知するところになった奇跡に深く感謝したい。
*1 いや、ひょっとして最初に読んだのは小学生末期だったろうか? どうも最近その辺の記憶が薄れてきている。明らかな老化の兆候だ。…まあいずれにせよ今にして思うと――当時からそう思っていたが――中(小)学生時代に中(小)学校の図書室で出会ったノンフィクション本の中で最高のものの一つ。
*2 子どもの頃はあまり意識していなかったのだが訳者はどちらも露文和訳者では無さそうだし、また『書物の歴史』の文中に原題が「Black on White」だという記述や「full」「fill」「fall」みたいな例語があることから、どうやらこの国土社版は英語版から重訳だったようだ。そこで国会図書館サーチで探したところ他社の訳書の中にはどうやらロシア語からの直訳と思われるものもある。そのうち読み比べてみよう。
2025/3/14追記 岩崎書店のイリーン名作全集4巻で「書物の歴史」だけ軽く読み比べてみた(国会図書館さんありがとう)。
基本的に同一内容だが、やはり英語に関連する部分が異なっているのが確認できた。また、気付いた限りでは漢字に関する部分(国土社版の「一の巻」最終章「文字をとりいれる」、岩崎書店の「第一話」最終章「文字の旅」)がかなり異なり、概して岩崎書店版の方が東アジア人から見て正しい記述がなされている。露文英訳者が漢字や中国語に無知で誤訳したのだろうか。
しかし訳文は(刷り込み効果もあるかもしれないが)圧倒的に国土社版の翻訳が優れている。岩崎書店版も別に悪文・悪訳ではないのだが、国土社版はまさに名文。明快さ、力強さ、そしてえも言われぬリズムが読者を強烈に惹きつける。翻訳の良し悪しで書物は凡作にも名作にもなりうることを再認識した。