今さら読んでみた。面白かった。概して、これまで知らなかった興味深いファクトが信頼できるエヴィデンスを元に簡潔かつ詳細に紹介されており、そして明快な論理で各章の社会の崩壊が分析されており、実に楽しめた。SF読書におけるセンス・オブ・ワンダーに近い感覚を味わえた。
著者ジャレド・ダイアモンドは(日本的な言い方をすれば)理系の研究者である。「作者のきもち」や「主人公のきもち」ばかり考えている文系出身の考古学者とは、やはり根本が違う。
以下、面白かった章の感想。
【第2章 イースター島に黄昏が訪れるとき】
イースター島の社会崩壊については多少ほかの資料から知ってはいたが、本書の第2章は実に詳細かつ明快で良かった。典型的な感想だろうが、イースター島人の愚かさとそれによる結末は、まさに現代文明の行く末を予見しているように思える。
【第3章 最後に生き残った人々――ピトケアン島とヘンダーソン島】
私も御多分に漏れず、「高貴な野蛮人」説と言うか「未開人は自明の理として自然と調和している」説に毒されていたので、イースター島の社会崩壊は例外中の例外だと思っていた。しかし同じく南東ポリネシアで3つの島にまたがる文明崩壊があったと知って驚いた。実に興味深い。
【第4章 古の人々――アナサジ族とその隣人たち】
初めて読む北米南部の社会とその崩壊については当然興味深かったのだが、むしろ本章で登場した2つの研究手法「年輪年代法」と「モリネズミの廃巣を分析する手法」に痺れた。年代の特定に賭ける考古学者たちの執念と発想力が素晴らしすぎる。
【第6章 ヴァイキングの序曲と遁走曲】
これも興味深い。ヴァイキングの活動についてはハリー・ハリスンの『テクニカラー・タイムマシン』を読んだことを発端におぼろげには知っていたが、これで全貌が掴めた。
特にアイスランドの件が興味深い。私のアイスランドに関する知識(知識?)と言えば『地底旅行』から得たものがほとんどだったところ、本章の明快な説明により全貌が分かった。「一見北欧本土と似ているが並外れて脆弱な土地柄」を「初期の植民者がほとんど消費し尽くしてしまった」が、ぎりぎりのところで「持続可能な生き方に切り替えた」結果、現代に至っているのか。
【第7章 ノルウェー領グリーンランドの開花】と【第8章 ノルウェー領グリーンランドの終焉】
中世グリーンランドについては、「中長期的な気候変動(寒冷化)により居住に適さなくなった」という認識しかなかったが、それが一面の真理に過ぎなかったことを知った。
気候変動と、「アイスランド以上に脆弱な生態系を傷つけてしまったこと」、「鉄などの資源を本土に依存していたこと」、「本土から見捨てられたこと」、「社会構造の硬直」、「エスキモーとの競合に敗れたこと(そもそも競合したこと。また、その生活の知恵を取り入れなかったこと)」等々が全て複合した結果、社会崩壊に至ったというのが著者の主張であり、実に説得力がある。
あと、グリーンランド植民地が文字通りの意味で崩壊していたことを初めて知った。穏便に店じまいしたわけではなかったのだな。
【第13章 搾取されるオーストラリア】
「オーストラリア大陸は大陸規模で脆弱であり、農耕や牧畜が成り立つ地域はほとんどない」にも関わらず「多くの地域で持続不能な(収奪的な)農耕や牧畜が今日に至るまで続けられている」とのこと。それに加えて外来動物の弊害。これはもう駄目かも分からんね。