SF少年文庫/SFロマン文庫の19巻、レッサーの『宇宙大オリンピック』を紹介します。
手元にない状態で本稿を書いたので(なおかつ、本書はあまり復習していないので)至らない点はご容赦ください。
2022年追記:ある図書館に遠征して現物を閲覧してきました。それに基づいて何点か修正しました。
【ビブリオグラフィ > 基本データ】
巻号:19
題名:宇宙大オリンピック
原書:Stadium Beyond the Stars (1960)
著者:ミルトン・レッサー
訳者:矢野徹
イラストレーター:武部本一郎
対象年齢:小学校高学年程度(※レビュアーによる見解)
【レビュアーによる評点 (S, A, B, C, D) 】
SF的着想の良さ:B-
小説としての良さ:C
総合評価:C+
【概要】
超光速駆動が発明されて約四百年後。人類は百余りの恒星系に進出していた。各星系は独立してから久しく、それぞれ独自の文化と気風を築いていた。
ある年、ある辺境の惑星で宇宙オリンピックが開催される。しかし歴史的に反目する二つの有力植民星アンタレスとデネブは、オリンピック会場星にも遺恨を持ち込み、不穏な空気が漂う。そして、折悪しくと言うべきか、超知性の宇宙人「ローラー」族が人類とファースト・コンタクトを図るべく、会場星を窺っていた。
こうして発生する数々の事件に、主人公(地球人。宇宙版そり競技の選手)が敢然と立ち向かい、結果、人類は融和し、宇宙人とも無事に接触がなされる。
【感想・評価】
本文庫の海外長編の中ではワーストの部類。積極的に悪い点があるわけではないのだが、積極的に良いと言える点が全くない。文学としてもサイエンス・フィクションとしてもテーマらしきものが全く読み取れない。テクニカルな見どころも特にない。登場人物にも魅力がない。ないない尽くしである。
ずばりの対象年齢である純粋無垢なローティーンのころも、本作の主旨や良さは全く感じ取れなかった。一人前の読書人になってからも理解するに至っていない。ひょっとすると1960年当時の社会情勢を完全に理解していれば寓意が読み取れたりするのだろうか……?
イラストは武部本一郎で、とても良い。ハヤカワ/創元のバローズ・タイプ小説だとけっこう絵が荒れていることもある武部画伯だが、ジュブナイルだと外れがない。
【レッサーについて】
作者は、レッサー名義だと他にも何作か邦訳があり、レビュアー個人としては世代型宇宙船テーマの『第二の太陽へ(第二の地球へ)』が思い出深い(と言っても、読んだのは少年時代に少年としてではなく、学生時代にSFマニアとしてだが。これを同時代かつ少年期に読んで世代型宇宙船テーマに出会った人が本当にうらやましい)。
比較的最近知ったのだが、作者はレッサー名義でのSF業はむしろ副業で、スティーヴン・マーロウ名義での仕事がメインらしい。邦訳もいくつかあるようだ。『秘録 コロンブス手稿』、『ドン・キホーテのごとく セルバンテス自叙伝』など、題名を見るに狭義のSFではなさそうだがなかなか興味深い。
【ビブリオグラフィ > 異版情報】
少年少女宇宙科学冒険全集(1962年)→SF少年文庫(1972年)→SFロマン文庫(1986年)→SF名作コレクション(2006年、『惑星オピカスに輝く聖火』に改題)。
SF少年文庫/SFロマン文庫では珍しい、少年少女宇宙科学冒険全集からの続投作品の一つ。平成版にもなぜか収録されたので、本作は、岩崎書店のジュブナイルSFの四全書には皆勤賞ということになる。