急に読みたくなって久しぶりに読んでみた。シェクリイは五本の指(少なくとも十本の指)に入るくらい好きなSF作家なのだが、たまたま、本書はこれまでほとんど読んでいなかった(少年時代に1度、学生時代に1・2度くらいか?)。
で、あらためて読んでみての感想を結論から端的に言うと、今一つだった。
テーマは悪くない。シェクリイが「矯正不能な重罪犯の流刑星」を舞台に「価値観逆転社会」を描くのであれば実に期待できる。そして、その奥にある真のテーマ、「徹底的に悪を排除した地球社会はどうなるのか?」という深淵なエクストラポレーションは、まさに50年代社会学SFにおける究極の質問であり、読者としては回答に大いに期待するところだ。
しかし、うまく料理出来ていない。前者については多くの紙数を費やしつつも結局語れば語るほど考察の甘さが露呈している。後者については終盤に駆け足で語ろうと試みているが、説得力を欠いたまま終わっている(紙数が少なすぎるので甘さを露呈はしていないのがある意味では救いか)。
小説としても出来が悪い。ストーリーは行き当たりばったりに思えるし(特に終盤の投げやり感よ)、登場人物は魅力を欠く上にやっていることが支離滅裂だ。随所に見られるモチーフは過去作品の焼き直し感が目立つ。ところどころに見られる寓話的な語り口は作品を安っぽく見せるという負の効果しか発揮していないように思える。シェクリイ特有の香気はかなり薄い。
つまるところ失敗作である。能力不足だったのか充分な労力を費やさなかった結果なのかは、本書を読むだけでは判然としないが、同時期の長編『不死販売株式会社』が傑作であることを考えれば、後者と判断すべきだろう。