誤解を恐れず言えば、SF趣味とフォーティアン趣味には密接な関係がある。実のところ私もフォーティアナ、特に未確認動物学には幼少期から多大の興味を持っている(*1)。
さて今回は、ハヤカワ文庫NFから未確認動物学のオールインワン詰め合わせパックが出ていたことを甚だ今さらながら認知したため読んでみた。
なかなか面白く読めた。
良いところ:
・情報量が多く、網羅的。1冊でここまで多くの未確認動物に触れた書籍を私は他に知らない。極東の小国のマイナーレイクモンスター、イッシーやクッシーにまで言及があって驚いた。
・平明かつウィットのある文体。この手の書籍の文章は(原文が悪いのか翻訳が悪いのか、両方悪いのか)たいてい拙劣で読むに堪えないものだが、本書は稀に見る例外である。
・考察があるところもある。例えばシーサーペントの一部やレイクモンスターの一部が「大型で首が長い新種のアシカ類」という主張は実に面白い。
悪いところ:
・安易な肯定主義(*2)。体感だが、明確に否定されているのは1・2割程度に過ぎない。残りは肯定。この世界がそんなロマンだらけなわけがない。
・章立ての不完全性。何のマーカーもなく唐突に(改行しただけで)次の怪獣の話題に移るような個所がしばしばあり、ノンフィクションの構造としては不完全に思える。翻訳家や編集者の裁量でもう少し細かく節や項に分けてくれても罰は当たらなかっただろう。
・考察がないところもある。ただ伝聞を述べているだけで、その未知生物について著者自身の考えが示されていないところもある。
総合的に見ると、大陸書房とか有象無象の三流出版社の怪しげなUMA本に比べれば別格のクオリティであり、情報量の豊富さもあり、インターネット時代前であれば大変重宝したことだろう(*3)。しかし軽信と取らざるを得ない執筆姿勢は感心しないし、天下のハヤカワ文庫NFに入れるには少々力不足と思える。
*1 信者ではないです。念のため。
*2 「著者紹介」にいわく「頑固な懐疑主義にも、過度の軽信にもくみすることなく、その謎の解明に取り組んでいる」とあるがこれは贔屓の引き倒しだろう。
*3 読むのが15年か20年ほど遅かったのが悔やまれる。残念ながら本書に含まれる情報の大半はすでに怪しげなWEBサイトで読んだことがあるものだった。より一次情報に近いソースを確認できたのは良かったが。