誤解、デマ、伝説という幾重もの霧に隠された大作家「ジュール・ヴェルヌ」の伝記の決定版……らしい。この、興味深いことこの上ない書籍が水声社という謎の出版社から刊行されていることを知ったため読んでみた。
どえらい大作であり労作であることは理解できた。しかし、自分が本書に対して役不足(誤用)であることもすぐに理解できた。白状すると精読する根気が続かず、興味の持てそうなキーワードが出てくる前後だけ拾い読みするのが精いっぱいだった(そもそもこの本は通読するものではなく、リファレンス的に使うものではなかろうか――と言い訳してみる)。
あと、従来から“ヴェルヌの親戚筋の人が書いた伝記”として存在自体は有名だった"Jules Verne, sa vie, son oeuvre" by Marguerite Allotte de la Fuÿeが本書ではなかなか否定的に扱われているのを知って、逆に読みたくなった(カリギュラ効果)。誰か翻訳してください。
追記:拾い読みの範囲内で知った興味深い項目を備忘のためにいくつか列挙しておく。
・グライダー「アルバトロス号」の発明者ルブリの死因は、強盗殺人の被害に遭ったこと。……何だろう、不謹慎だが物凄く陰謀論的なイマジネーションの高まりを感じる。誰か本件を題材にしてオルターナティブ歴史SFかスチームパンクSFを書いて欲しい。
・ヴェルヌ死後に発表された作品の大半は、息子ミシェル・ヴェルヌの手が入っている。前々から間接的あるいは不確実な情報としては認知していたが、作品によっては随分と抜本的に手が入っていると本書は名言している。確かに『地の果ての灯台』とか『サハラ砂漠の秘密』とか、別に嫌いではないけど作風の違いはあるかも。
・アルベール・ロビダにはヴェルヌ作品のパロディ小説"Voyages très extraordinaires de Saturnin Farandoul"があり、かなり売れたらしい。例えばフィリアス・フォッグ氏が、世界各地で助けた女性累計数十人を引き連れていたりするらしい。魅力的過ぎる。読みたい。誰か翻訳してくださいお願いします。
追記2:死後発表作品が息子ミシェルに改変されているという説をはっきり認知したことを機に、インスクリプトの《驚異の旅コレクション》の『カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密』のメタデータ部分をちらっと見直してみたところ、次のことを知った。
・この本の『ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密』部分は、ミシェル・ヴェルヌによる改作された版ではなくオリジナル版を原書としている(p188より)。ありがたい。
・『永遠のアダム』は「ほぼ間違いなくミシェルの単独作である」(p372より)。ジュール・ヴェルヌ作品の中でも異色中の異色作品だとは思っていたが、そういうことだったのか!