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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

シューヴァル&ヴァールー『バルコニーの男』『消えた消防車』(旧訳版)感想

「マルティン・ベック」シリーズ第三巻・第五巻。

面白かった。

99%の地道な捜査と1%の閃きで謎が(そして社会の闇の一端が)解明されていく様は、まさに警察ミステリ小説の醍醐味である。

個性豊かな登場人物たちの群像劇もとても好ましい。『バルコニーの男』では「自警団」を静かにたしなめるベックがの姿が、『消えた消防車』ではアーパー娘に更生をすすめる(そして利己的観光女に正義を説く)ラーソンの姿が実に印象的だった。

高見浩の翻訳はまさしく申し分なし。実に気持ちよく読めた。……いや申しわけないが一つだけ疑問がある(重箱の隅をつつくようでもあるが警察小説というメインテーマの本質に関わる部分なので許してほしい)。登場する警察官の階級が日本的感覚からすると実態より二階級くらい高すぎるように思えるのだが、もしかすると翻訳ミスだったりしないだろうか。それとも(むしろこちらの説が濃厚だが)翻訳は語学的には正しいが、それぞれの階級名と実態の関係性が日本ではデフレし、スウェーデンではインフレしているということなのだろうか。誰か有識者がいたら教えて欲しい。

さて、ほどほどにまともな上司のハンマルが引退したため後釜に最低最悪の官僚野郎が座るのは、調べてみたところ次の巻である『サボイ・ホテルの殺人』からのようだ。また、それと同期するかのようになぜかスウェーデンの社会情勢も巻を追うごとに陰鬱になってゆきベックは自分の正義感と組織の方針の食い違いに煩悶し、頼れる相方のコルベリは遂に組織を去る……というような展開を記憶している。読んでも気分が悪くなるだけなので(学生時代ですらかなり気が滅入った記憶がある。今ならなおさら耐えられまい)この先を読み進めるのは控えようと思う。私にとってマルティン・ベックシリーズは五巻で終わったと考えよう。
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