《マルティン・ベック》シリーズ。学生時代にはよく読んでいた。新訳が数年前に出ていたと知って、これを機に再読してみたものである(やはり重訳は邪道だと思うので)。わけあって最初からではなく、2巻である本書から着手。
記憶していた以上に味わい深く、考えさせられる物語だった。ただし、前に読んだのがだいぶ昔であるせいかもしれないが、旧訳との間に優劣や違和感は特に認知できなかった(唯一気づいたのが「メランデル」が「メランダー」に変わったことだが別に否定的感覚も肯定的感覚もない)。後書きによると旧訳(重訳)版はスウェーデン語・スウェーデン文化に関する細かい点が省かれがちだったらしいが……
追記:旧訳の『蒸発した男』と読み比べてみた。薄っすらとした記憶ではなく、実際に目前で読み比べてみると違いは歴然としている。(好みの問題もあるかもしれないが)旧訳が圧倒的に良い。原文は読んでいない(読むスキルもない)ので、正確な翻訳かどうか、原文の意をどれだけ汲めているかといった観点での評価はできないが、単純に日本語の小説として結果だけを見れば大人と子供くらいのクオリティ差があると言わざるを得ない。新訳が全巻出ずに終わってしまったのもうなずける。