- トーベ・ヤンソン&ラルス・ヤンソン 作
- 冨原眞弓 訳
- 筑摩書房
- 《ムーミン・コミックス》
- 1.『黄金のしっぽ』(2000年7月)
- 1-1.『黄金のしっぽ』
- 1-2.『ムーミンパパの灯台守』
- 2.『あこがれの遠い土地』(2000年8月)
- 2-1.『ムーミン谷のきままな暮らし』
- 2-2.『タイムマシンでワイルドウエスト』
- 2-3.『あこがれの遠い土地』
- 2-4.『ムーミンママの小さなひみつ』
ここ最近のムーミン熱再興で、小説版は再読し尽くしてしまい困っていたところ、コミックス版が存在していることを思い出して読んでみた。昔々(おそらく刊行直後ころ)ひととおり読んだ記憶はあるが、それ以来長らく一度も読んでいなかったものである。
面白い。想定外に面白い。以前読んだ時は「小説版の亜流」くらいの認識しか抱かなかった記憶があるが、全くもって不当な評価だった。異なるメディア形式かつ異なる想定読者層だからこそ、独特の工夫を凝らしてあり、独特の味が実現され、独特の価値を生んでいる。
美点は数多いが、最たるものを挙げると、小説版ではただただ“良妻賢母”としての一面ばかりが強調されていたムーミンママが一人の人間として描かれる率が高いのが気に入った。特に『ムーミンママの小さなひみつ』は実に良い。
作者たちは、むしろ小説版よりのびのびとエンジョイして創作できているのではないか。小説版こそが主軸であり本筋でありあらゆる面で優れていると決めてかかっていたのは、安易なスノビズムだった。反省する。
日本のアニメーション版ムーミンとの関連性も興味深い。これまで『楽しいムーミン一家』は(あれはあれで嫌いではないのだが)原作をあまりに改変し過ぎている、または無から有を勝手に作り出し過ぎている(特に『冒険日記』編が)と思っていたのだが、原作として小説版の存在しか考慮に入れていなかったゆえの誤解だった。あのアニメーションは小説版よりもむしろコミックス版を原作にしていたようだ。なぜその二つが自分の中で結びついていなかったのか、自分が自分で理解できない。また、冷静に考えてみると異なるメディア形式と異なる受容者を想定している以上それに合わせて細部を変化させるのはむしろ必然であるため、アニメーション版を一概に蔑視するのは不当だと思い至った。
とにかく、良い読書ができた。続きも順次読んでいきたい。