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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

『ユートピア旅行記叢書9 東欧・ロシア』感想

【ミコワイ・ドシフィヤトチンスキの冒険】
原書刊行年:1776年
国:ポーランド
著:イグナツィ・クラシツキ
訳:沼野充義

これは『ユートピア旅行記叢書』の収録作品としては珍しく、楽しんで通読できた。おそらく珍しく原書がまともで、訳者も(沼野充義なので)まともだったからだろう。現代人から見ると主人公の前半生(南海へ出発するまで)パートが少々退屈であるが、そこを除けば小説としても空想小説としても何ら不満がない。実際訳者後書きで「ポーランド最初の(近代)小説」と紹介されているのも頷ける。

描かれるユートピア「ニプ」国――金属器も知らないほど原始的で素朴ながら、質実剛健で理性と慈愛に満ちた社会――も興味深く、かつ魅力的である。

本作のような秀作をごくごく一部の好事家――いや専門家、研究家と言うべきか――のみならず、一般人にも読めるようしてくれた『ユートピア旅行記叢書』というプロジェクトは本当に素晴らしい。(成人した)今にして思うに、誰が企画してくれたのだろう。採算は取れたのだろうか?

【オフィル国旅行記】
原書の推定執筆年:1783年~1784年
国:ロシア
著:ミハイル・シチェルバートフ
訳:井桁貞義・草野慶子

フランスの軍艦が喜望峰付近から南に漂流し、サンスクリット語を話す未知の国家に漂着し、主人公一人を残して帰路に就くまでの物語前半部分はテンポも良く、楽しく読めた。しかしその先がいけない。ひたすらユートピア社会の制度の解説ばかりで退屈の極みである。

【《幸福な社会》の夢】
国:ロシア
原書刊行年:1759年
著:スマローコフ
訳:井桁貞義

小説というよりその草稿の断片と称するべき文書であり、評価できない。SF読者から見て着目すべきアイディアも見られない。

【ベリョフ市民の月世界旅行】
国:ロシア
原書刊行年:1784年
著:ワシーリイ・リョーフシン
訳:井桁貞義

羽毛を利用する飛行機械で月に行った男の体験談であり、SF史的に興味深い。月に行った地球人が月人のシンプルかつクリーンな社会を見聞きするだけではなく、逆に地球から帰った月人により唾棄すべき地球社会の様相が語られる二段構えの構成はさらに興味深い。
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