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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

クラーク『前哨』感想

ハヤカワ文庫SF 607
1985年

『SF文学』で『前哨』が言及されていたことから急に読みたくなり、それを含む短編集を国会図書館デジタルコレクションで読んでみたものである(*1)。

『第二の夜明け』…知性は高いが手が不器用な(というか手がない)種族と知性は大したことがないが手が器用なヒューマノイド種族が出会い、双方が画期的な発展を遂げるというアイディアはとても面白い。しかしアイディア倒れと言おうか、それ以外の全てがパッとしない印象で総合的に見て凡庸だ。

『おお地球よ…』…SFにおける叙述トリック系(とでも言うのかな)なのだが、陳腐。

『破断の限界』…これはSFマガジンのバックナンバーで読んだ記憶がある。SFにおける極限もの(『冷たい方程式』より古いようなので方程式ものと呼ぶのは不正確であろう)で、緊迫感はあるのだが特にこれと言った美点が見いだせない。

『歴史のひとこま』…これもどこかで読んだ記憶がある。軽いユーモアのショートショートとして、悪くない。

『優越性』…これもショートショートなのだろうが、今一つどこが笑いどころなのか分からない。

『永劫のさすらい』…近未来の独裁者と、遠未来の時間追放者が超遠未来で出会うという着想には優れたところがあるが、それを活かし切れていない。凡庸で退屈。

『かくれんぼ』…正統派の宇宙科学SFであり、問題発生&解決ものである。小説作法は紋切型だが、この手のアイディアものはそれで良いのだ。唯一にして最大の欠点は、時代錯誤であることだ。これが1930年代の作品なら褒めそやしたいのだが、1949年に一流紙に一流作家が載せたのであれば雑誌にも作家にも疑念を抱かざるを得ない。

『地球への遠征』…まさか、ファースト・コンタクトを仕掛けている宇宙探検者側が異星人で仕掛けられている原始人が地球人だとラストで判明するのが本作の主旨だとすれば、1950年代のSFとしてはお粗末と言わざるを得ない。しかも題名でネタバレしているし。

『抜け穴』…レベルが低い。SFショートショートは何をやっても良いわけではない。伏線なしでこういうオチを持って来られてもデウス・エクス・マキナでしかない。

『遺伝』…意味不明。

『前哨』…単純ながら優れたアイディアと言い、作品全体に漂う独特の精気と言い、実に非凡だ。本短編集において唯一の成功作だ。

こうして見ると、クラークの40年代末期~50年代の短編は玉石混合のようだ。「御三家」の作品だからと言って無批判に受け容れるべきではない。こんな「石」に翻訳出版業界のリソースを割くくらいならもっと翻訳すべきマイナー作家の作品が他にいくらでもあったのではないか?


*1 申し訳ないがクラークを網羅的に所蔵しているような教条的なSFファンではないのである。
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