DESTINY'S ORBIT
作 デイヴィッド・グリンネル
訳 宮田洋介
久保書店 Q-TブックスSF 1978年
もろもろあって未読のままだったが、国会図書館デジタルコレクションで閲覧可能になっていることに気付き、ようやく読んでみた。
実に他愛のない作品だが、他愛のない作家が他愛のない読者に向けて書いたという趣旨の範囲内ではほどほどに良く書けていると言えなくもない。天下泰平な世の中に飽き足らず、大航海時代のような冒険を求める大富豪のお坊ちゃんを主人公にしたコメディというコンセプトは悪くない。多彩な知的生物が雑居する火星、省エネ宇宙船で惑星間を渡る宗教団体、トロヤ群の独立といった小ネタにも優れたところがある。
しかし残念なのはヒロインが魅力皆無な上に読者に嫌悪感を与える人物像であることだ。駝鳥のように愚かで、根拠薄弱かつ分不相応な法的権威を振りかざし、お客様根性にあふれ、自分を客観視できず、主人公の寛容さに報いることをせず、ただただ主人公に迷惑をかけるだけのクソ女。結末でこいつが悲惨な最期でも遂げればまだ作品にとってプラスにならなくもないが、二人をくっ付けて大団円にするとは何事か。作品の良さを半減する汚点である。(ひょっとしてウーマン・リヴ運動に対する風刺なのか…?)
とにかく、これでデイヴィッド・グリンネルの邦訳長編をようやく全て読破した。小学生末期に読んだ『百万年後の世界』――おそらく私が「ハヤカワ文庫SF」として自覚的に読んだ最初の作品の一つであり、思い出深い作品である――以来、幾十年を要した。感慨深い。(ドナルド・ウォルハイムとして見てもこれで全て読破したことになる。たぶん人生で2・3番目に読んだSFとして思い出深い『なぞの第九惑星』以来、幾十年を要した。感慨深い。)