昔々、図書館を利用して1度だけ読んでいたが特に心に響かなかったこともあり、長年のあいだ再読せずにいた。今回は国会図書館サーチで何かを検索していたらたまたま本書も出て来て、インターネット閲覧可能だったので久しぶりに読んでみたものである。
記憶していた印象より格段に面白かった。次元もののマスターピース…とまで言ってしまっては賛同しない人もいるかもしれないが少なくとも秀作であることに異論がある人は少ないだろう。またテッド・ホワイトの邦訳作品の中では最優秀作品であろう。巻末の解説(安田均)によるとキース・ローマーの『都市への道』をリスペクトした作品だということで、確かに雰囲気やモチーフやコンセプトに近いものを感じる(鉄道で異世界に迷い込んでしまうという発端はそれそのもの)。比較すると良い点も悪い点もあるが、単なる模倣ではなく自分なりの作品に昇華していることを評価したい。
「あの男」をキーパーソンにするというアイディアも説得力を増す効果を上げている。
そして単にコンセプトやアイディアだけでなく、小説としても悪くない。主人公フィカラと副主人公(ヒロイン)キムの人物像は厚みがあり好感が持てるし、彼らの関係性を横軸にする構造は成功している。
テッド・ホワイトの株がぐんと上がった。今度《クワナール》シリーズの最近読んでいない巻も復習しよう。