これまでたまたま遭遇しておらず、また題名やあらすじにさほどの魅力を感じ取れなかったため積極的に入手を図ってもいなかったところ、仮にも一人前のSFファン(?)がシマックもコンプリートしていないのは問題かと思い立ち、ようやく読んでみた。半ば義務的な気持ちで、さほどの期待はせずに。
例によってそういう心境の時ほど純粋にSFを楽しめるものである。
濃厚で、馥郁たる香りがあり、底知れぬ深みを感じさせ、なおかつシマック特有の田園感が効いている。そして、『都市』や『超越の儀式』を思わせる人間臭いロボットたちが辺境の惑星で幻視者を育成して“天国”を探求するというSF的骨子には痺れた。
クリフォード・D・シマックは、今さら言うのも何だがやはり卓越している。その卓越性が遺憾なく発揮されれば『都市』や『中継ステーション』のようなオールタイム・ベスト級の傑作が生まれるわけだが、多くの作品ではその良さの発露は萌芽的なレベルに留まり、結局作品全体としてはちぐはぐな仕上がりになっている。
本書は、前半に関しては、一分の隙もない。読んでいる途中には、『都市』『中継ステーション』以上の傑作かもしれないと思えたほどだ。
しかし、後半では明らかな失速が感じられるし(そもそもやけに長い)、結末も今一つに思える。総合的に見ると一級品の作品とは言い難い。残念だ。
とは言え、一時的には良い読書体験が久しぶりにできた。生きてて良かった。あと表紙絵はなかなか味がある。ハヤカワ文庫にしては珍しい、原書からの移入のようだ。