久保書店SFノベルズ『太陽系の危機』より。
ヴァンスは十本の指に入るくらい好きな作家なので昔から本作の存在は認知していたが、諸々あって先日ようやく通読した。
結果、着想に優れたところはあるものの、どうもパッとしないところも多く総合的に見ると今一つだった。
・ヴァンス風SFの肝である異星文化があまり良くない。神秘的な“樹”を中心とした宗教国家という着想は良いが、実際に読み進めるとただただ不愉快なだけで面白みや深みに欠けている。
・登場人物に魅力がない。主人公の行動原理が分からず感情移入できない。ヴァンスにはハードボイルド風の書き方が功を奏している作品も多いが、本作では逆効果になっている。
・長い割に内容が薄い。単行本一冊の半分くらいを占める長い中編であるが、半分くらいに圧縮した方が良かったのではないか。
・翻訳が悪いのか原文が悪いのか、両方悪いのか、文章が頭に入って来ない。
・久保書店特有の邦題の悪さが極まっている。確かに宇宙が舞台だし食人することもある植物が出て来るしその植物が物語の中心とも言えるが、ただの怪物ものの如き題名は作品の本質を捉えていない。
なお、本稿を書くためにISFDBを見てみたところ、本作は近年翻訳の出た『ノパルガース』(あまり好きではない)と同じシリーズのようだ。