『年刊SF傑作選』。1・2巻あたりは(ファンタジー小説として)好きな作品も多いのだが、巻を追うごとにあまりにもハイブロウな作品が増えるこの選集。この巻を手に取るのはひょっとすると十年ぶりか、二十年ぶりかもしれない。
というわけで読んでみたわけだがやはりハイブロウーーと言うより私の感覚ではSFとは見なせない作品があまりにも多い。ジュディス・メリルはたぶん「すごい人」なのだろうし、六十年代のムーブメントも分からなくはないし、私にそれらのソフィストケイトされた作品を理解する知性が足りていないと言われてしまえばそれまでなのだが、やはり本書の収録作品にはSFをSFたらしめる何かが欠けている作品が多いように思える。彼らが従来的価値観を否定して否定して辿り着きたかった境地はこんなものなのだろうか?
他の巻もそうだが、プロパーSF作家でないと思われる作家(少なくとも『年刊SF傑作選』以外では見たことのない作家)が過半数を占めているのは興味深い。……興味深くはあるのだが、単に奇をてらっているだけと言おうか「商業主義に汚染されていない素人こそ至高」のような安易な思考回路を透視してしまうのは私の知性の不足と心の狭さの表れだろうか。
とにかく、第5巻で私が「良いSF小説」だと感じた作品はゼロである。「良い空想小説」だと感じた作品も遺憾ながらゼロである。あえて言えば、昔読んだときと同じくトマス・M・ディッシュの『降りる』とマック・レナルズの『平和主義者』は「心に残る何かがある作品」だと感じた。
追記:カバーの折り返しでフィーチャーされている創元推理文庫既刊がエドガー・ライス・バローズとE・E・スミスであることにおかしみを感じる。読者層はどれだけオーバーラップしているのだろう?