数年に一度読みたくなる本。その周期が数回目に巡ってきたのを機に購入して再読。
総合的に見て志のあるアンソロジーであり、作品の質も概して高い。あえて言えばポーランド、ルーマニア、チェコ、ブルガリアが一作家ずつなのが惜しい。折角なら序文で名前だけ挙げられているような未知の作家の作品を一人でも多く紹介して欲しかった。
ともあれ『異邦からの眺め』、『世界SF全集(33) 世界のSF(短篇集)ソ連東欧篇』、『ロシア・ソビエトSF傑作集』、『東欧SF傑作集』と並ぶ名アンソロジーである。
【ポーランド】
4編全てがレムなのは不満である。どれも秀逸な出来栄えであることを否定はしないし、おそらくレムがほとんど紹介されていなかったのであろう当時の英語圏読者のための重点的紹介なのかと推察するが、レムがいくらでも邦訳されている現代日本人としてはむしろ未知の作家を優先してもらいたくなる。
それはそうと前回まではほとんど読み飛ばしていたが、宇宙飛行士ピルクスものの『パトロール』の良さに今回気付いた。
【ルーマニア】
ウラディミル・コリンという作家の短編『接触』のみを収録。独特の詩情のあるファースト・コンタクトもので悪くはない。
【チェコスロバキア】
ネスヴァドバの『吸血鬼株式会社』のみを収録。独特の切れ味のある佳品ではある。しかし勝手な見解かもしれないが、この作品は有名すぎてウォルハイムの年刊SF傑作集『時のはざま』と講談社文庫BXの『世界カーSF傑作選』にも収録されているので、貴重な非英語圏SF訳出の枠を重複して圧迫するのはやめてほしい。
【ブルガリア】
アントン・ドネフという作家のショートショート『アトランティスが沈んだわけは』のみを収録。何やら寓意が込められているのだろうが、良く分らない(共産主義体制への遠回しな批判なのかな?)。
【ソ連】
ゲンリヒ・アリトフ『物質化された詩』:よく分からない。
ローメン・ヤーロフ『文明の発端』:軽妙なユーモアSFとして評価できる。時間旅行機レースという題材も興味深い。ひょっとすると何かを風刺するのが真意なのかもしれないが、そこはソビエト・ロシアに関する予備知識が不足していてよく分からない。
ニコライ・トーマン『SF論争 ――モスクワ・1965年――』:よく分からない。
イリヤ・ワルシャフスキー『超心理学講義』『生体電流ばやり』『知選器』『食わず屋』:軽妙なアイディアSFとして評価できる。ひょっとして裏があるのかもしれないがストレートに読んでも面白く、特に『知選器』と『食わず屋』は本アンソロジーで私が最も好む作品である。
アナトーリイ・ドニェプロフ『交通違反』『規格人間生産工場』『蟹が島を行く』:これも軽妙なアイディアSFとして評価できる。