創元SF文庫(2008年)
キャプテン・フューチャー全集 別巻
蔵書より。久しぶりに再読。
パスティーシュとして文句なしの秀作であり、うっかりして原典を上回ってしまっている部分もそこかしこに見られる。個人的にはオットーおよびグラッグの人間性が原典より重点的に描写されているのが嬉しいところである。
この調子で(本文中にも示唆されているように)《新キャプテン・フューチャー》や《幼きキャプテン・フューチャー》をどんどん書いて欲しかったのだが、何らかの事情でそれは叶わなかったようであり残念だ。何かのエッセイで「幼年編を書き始めてはみたものの、どうも暗くなってしまっていけない」みたいな記述があった記憶があるので、著作権等の「大人の問題」というより単に創作が捗らなかったのだろうか。あるいは《銀河乞食軍団》シリーズ――遺憾ながらあまり面白いとは思えない――その割には長大である――の執筆を優先した結果なのだろうか。惜しまれる。
とにかく本書は素晴らしい。別巻(本書)および短編集(11巻)を加えたシリーズ全編を全集として出し直した東京創元社も素晴らしい。
ただし、あえて苦言を呈するならば、本巻に限らず創元版キャプテン・フューチャー全集における鶴田謙二のイラストはあまり好きになれない。特に女性の絵が良くない。この人がかなりの大物画家であることは分かっているしオリジナル作品については好きなものもあるのだが、少なくとも《キャプテン・フューチャー》に合っているとは思えない――絵柄が新し過ぎるしスマート過ぎるし方向性が根本的に違う――のだ。ハヤカワ文庫からの移転作品については何とかして水野良太郎のイラストを再録して欲しかったし、本巻についても何らかの手を講じて欲しかった(SFマガジン掲載時、挿絵はあったのだろうか? あったのだとすればその再録とか)。
ところで、本作が
遺族の了承を得て書きあげた
ものであるにも関わらず、アレン・スティールは『キャプテン・フューチャー最初の事件』の「著者あとがき」にて
「〈物質生成の場〉の秘密」以来はじめての公認された新しい《キャプテン・フューチャー》シリーズの作品
だと述べている。これはつまり、本作の存在を全く無視しているわけである。アメ公が調子に乗るなよ。だいたい野田大元帥がハミルトン夫人(リイ・ブラケット先生)から直々に許可を得たのに対して、このアメリカ人はどこの馬の骨からいかにして「公認」を得たと言うのか?