著:アンガス・マクビッカー(Angus MacVicar)
原書:The Lost Planet (1953)
訳:白木茂
偕成社 SF名作シリーズ 17(昭和43年)
偕成社SF名作シリーズ。どうもラインナップにセンスや志を感じない(*1)し、居住した地域の図書館に所蔵されているということもなく、認知したころには大半の収録作品を別の児童向けレーベルや完訳で読破していたので、これまでほとんど着目していなかった。それが国立国会図書館のデジタルコレクション(国立国会図書館内/図書館・個人送信サービス)で読めるようになっていることに気付いたので、このレーベルでしか読めない数少ない作品のうちの一冊をまず読んでみたわけである。
うん。あまり面白くはない。
「数千年の周期で地球に近づく伝説の小惑星に、新発明の原子力ロケットで探検に行きます!」
「目的は黄金に変換できる新鉱物を採取することです!」
「伝説どおり、小惑星の空気には人を平和にする作用がありました!」
……アイディアが貧困かつ有機的に結びついていない。
あえて肯定的に捉えるならば平易で素朴で教育的と言えなくもないし、その時点のその界隈に限定すればある程度価値が高かったのかもしれないし、そもそもそういうコンセプト(*2)だと言われるとそれまでだが、やはり現代人から見るとSFの命である新規性やセンス・オブ・ワンダーが極めて薄いことは否めない。
あと、このレーベル全般に言えることだが書名が羊頭狗肉/ハッタリ/不正確で良くない。本書はあまりスパイ戦はしていない。
なお読み終わってからこの作者が角川文庫SFジュブナイルから《宇宙船スーパー・ノヴァ号》なるあまり面白くなさそうなシリーズを2冊だけ出している「アンガス・マクヴィカー」と同一人物だと気づいた。
*1 あえて評するならエンターテイメント路線とも言えるが…
*2 ステファン・モグリッジの『恐怖の月爆弾』もそうだが、SFそのものではなく、SF風味のアクション/スリラーと言うべきかもしれない。当時のイギリスでは流行っていたのかもしれない。また、それを多少は受容する空気が日本にもあったのだろう。