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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

アシモフ 地球の危機 レビュー

『太陽系の侵入者』からのつながりで、急に「ラッキー・スター」シリーズをコンプリートしたくなり、唯一残っていた『地球の危機』を読んでみたのでレビューします。
 

 
題名:地球の危機
副題:宇宙をかけるレインジャーの物語(※表紙にのみ記載。奥付等には記載なし)
出版者:旺文社
レーベル:旺文社ジュニア図書館
出版年月:昭和50年10月20日初版、昭和51年第四版
原書:David Starr, Space Ranger (1952)
著者:アイザック・アシモフ(※本来はポール・フレンチ名義で発表)
訳者:小尾芙佐
イラストレーター:金森達
 
【レビュアーによる評点 (S, A, B, C, D) 】
SF的着想の良さ:B-
小説としての良さ:C
総合評価:C+
 
【梗概】
世界各地で相次ぐ謎の食中毒事件。科学局の新人デイヴィッド・スターは鍵は火星にありと推測し、単身火星に潜入する。この時代、火星は地球の穀倉地帯であり、ここが汚染されると地球はおしまいなのだ。
(※ネタばれ回避のため、以下白文字)
失業者を装って職業安定所に赴くスター。彼はここで失業者ビッグマンと出会う。スターは餌を撒き、食いついてきた大農場の一つに雇われる。農場は陰謀の香りに満ちていた。
スターは、執拗に自分の命を狙うグリスウォルドを返り討ちにして地歩を固め、冴えない農学者ベンソンから情報収集し、謎の核心に迫る。果たしてベンソン説のとおり、地下に火星人が存在し、その仕業なのか? 大亀裂に潜ったスターは古代火星人に出会う。だが彼らは超知性のエネルギー生物であり、俗世に干渉する意図は持っていなかった。
であれば、犯人は人間だ。地表に戻ったスターは関係者を集め、犯人を指名し、物語は大団円を迎える。
(※ネタばれ回避のため、以上白文字)
 
【解説】
SF御三家の一人、アイザック・アシモフが50年代に変名ポール・フレンチで発表したジュブナイル、「ラッキー・スター」シリーズの第一作。
シリーズの概要はこちらを参照 → ラッキー・スター・シリーズとは
 
【感想】
ミステリ的プロットの知的スペースオペラというコンセプトは本作の時点で固まっていたようだ。そこは良い。しかし出来が悪い。一流の作者、一流の翻訳者、一流のイラストレーター、シリーズの他の巻が一流の出来栄えであることから過度の期待を抱いていたレビュアーが悪いのかもしれないが、本作は全く面白く感じなかった。
ガジェットが白々しく、まるで取って付けたようで、物語と噛み合っていない。火星人のくだりは要るのか? ましてや魔法のアイテムは要るのか?
ミステリとしても説得力を欠くように感じる(専門外なので断言はしかねるが)。
つまるところ子供だましの凡作である。この時のアシモフは魂が抜けてでもいたのか?
 
【余談】
  • この訳書はアイザック・アシモフ名義でクレジットされており、ポール・フレンチ名義のことは言及がない。
  • 舞台が「ピラミッドが作られてから一万年、最初の原爆が爆発してから五千年」(7ページより引用)という設定が英語版Wikipedia投稿者の妄想でないことが確かめられたのは収穫だった。しかし、やはり黒歴史としか思えない。本作も、邦訳されている別の巻(2、4、5、6)も、遠未来感が全くない。せめて五百年後とかにしておけばいいのに、この時のアシモフはどれだけ適当だったのか。
  • 『アシモフ自伝』で「ラッキー・スター」シリーズへの否定的な言及があったように記憶しており、これまで同意しかねていたが、この『地球の危機』に関しては確かに同意せざるを得ない。
  • 他の巻では断片的にしか語られない、スターの出自、コンウェイとの関係が明記され、ビッグマンとの出会いが描かれるのは良かった。これでようやく事情が分かった。とは言っても他の巻にはその要約を1・2ページ挿入してくれれば済む話なのだが。シリーズの途中だけを出版したにも関わらずその努力を怠った岩崎書店、角川書店、講談社には猛省を促したい。
  • 邦題が悪い。『地球の危機』なんて、言ってみればSFの半分は該当してしまう(文学における『人間の情景』みたいなものだ)。どうせ原題と無関係な邦題を付けるなら、もう少しセンスが欲しい。
  • 「この本を訳した小尾芙佐先生」と「絵を描いた金森達先生」の近影が巻末に載っているのは意外な収穫だった。正直、彼らの風貌を初めて目にした。小尾芙佐って女性だったんですね(勉強不足ですみません)。そして金森達が長髪・髭・サングラスの無頼な風貌で驚いた。画風からして地味目な人かと勝手に思っていたので。
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