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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

SFロマン文庫を語る 第3回

SFロマン文庫の第3巻、マレイ・ラインスターの『わすれられた惑星』を紹介します。
好きな作品です。比較的初期に読んで、その時から今に至るまで一貫して好きな、高く評価している作品です。レビュアーにとってラインスターと言えば今でも本作と中編『ロボット植民地』の作者という印象が強いです。
 

 
【ビブリオグラフィ > 基本データ】
巻号:3
題名:わすれられた惑星
原書:The Forgotten Planet (1954)
著者:マレイ・ラインスター (Murray Leinster)
訳者:矢野徹
イラストレーター:石田武雄
対象年齢:小学校中学年~中学校前半程度(※レビュアーによる見解)
 
【レビュアーによる評点 (S, A, B, C, D) 】
SF的着想の良さ:A+
小説としての良さ:A+
総合評価:A+
 
【梗概】
恒星間飛行を実現した人類は、銀河系に広がって行った。直ちに居住可能でない惑星についてはテラフォーミングを施して植民した。ところが、無数の事例の内ある惑星ではミスが起きた。微生物、キノコ類、魚類、昆虫類を移植したところで、なぜか惑星の存在が忘れられ、被子植物や四足獣の導入作業が行われないまま放置されるに至ったのである。
時が経つと、この惑星は人知れず昆虫の楽園となっていた。天敵もいないので巨大化した昆虫たちの。そんなある日、一隻の宇宙船がこの惑星に不時着した。不運な人々には脱出の術もなく、文明を維持する術もなかった……
そして遭難者の子孫が石器すらままならなく退歩した時代に物語は始まる。
(※以下、ネタバレ回避のため白文字)
一人の卓越した青年が、カブトムシの角を拾う。彼はそれを活用し、半ば偶然、半ば天分により「槍」を再発明する。一度花開いた天才は留まるところを知らず、彼は長い間種族が忘れていたことを再発見していく。道具を作り、武器を作り、巨大昆虫から逃げ惑うのではなく立ち向かうことを覚える。その場のことだけではなく、先のことを計画するようになる。そして彼は一族を引き連れ、安住の地を求める旅に出る。彼らは巨大昆虫を避け、時には戦い、巨大キノコの毒性胞子を避け、初めて出会う河を下り、未知の土地を進む。
そして彼らは巨大虫も巨大キノコも少ない高地に行き着く。また、彼らは人間の唯一の友人、犬との再会も果たす。
最終的に彼らは文明社会からの宇宙船に出会って救助され、教育装置で文明人と同等の言語と知識を身に付ける。これで彼らの脱出の旅は終わった。そしてこれからは、低地の同胞を救援する旅が始まるのだ。
(※以上、ネタバレ回避のため白文字)
 
【作品成立の背景】
大御所、マレイ・ラインスターの長編です。書誌情報的には黄金時代の作品ですが、実際にはパルプ時代の複数の中編を結合して長編にしたものです。
 
【感想・評価】
叢書中で屈指の傑作です。一言で表現すればラインスター版『地球の長い午後』です。異様な生態系の中、反抗的で非凡な青年が忘れられた知恵を復興し、危険な旅をくぐり抜け、そして人間的にも成長――回復? 回心?――していく物語であり、その迫真さ、重厚さ、文学性は『地球の長い午後』同様に卓越しています。
(と言いますか、レビュアーはむしろ『わすれられた惑星』が基準、『地球の長い午後』を派生作品と捉えているのですが。)
非の打ち所がないサイエンス・フィクションであり、非の打ち所がないジュブナイルであると言ってよいでしょう。
 
【イラスト】
本叢書中で唯一、石田武雄という人物が担当しています。渋みのある具象画で、『わすれられた惑星』の作風にも良く合っていると感じます。
軽く調べたところ昭和30年台・40年台に児童書のイラストを多く書いている人のようです。SF関係の他の仕事としては創作子どもSF全集の『あの炎をくぐれ』(光瀬龍)と『宇宙にかける橋』(福島正実)など、さほど多くないようです。
 
【ビブリオグラフィ > 異版情報】
SF少年文庫 → SFロマン文庫 → SF名作コレクション(題名変更なし)。平成版のイラストは、Webで表紙のサムネイルを見る限りでは、やはり品質と言い作風との適合度と言い今一つだと感じます。
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