SFロマン文庫第4巻、『宇宙人アダム・トロイ』の紹介です。
本書については手元にない状態で本稿を書いたので、至らない点はご容赦ください。
【ビブリオグラフィ > 基本データ】
巻号:4
題名:宇宙人アダム・トロイ
原書:Adam Troy, Astroman (1954)
著者:メアリ・パチェット (Mary Elwyn Patchett)
訳者:白木茂
イラストレーター:金森達
対象年齢:小学校中学年~小学校高学年程度(※レビュアーによる見解)
【レビュアーによる評点 (S, A, B, C, D) 】
SF的着想の良さ:B-
小説としての良さ:C+
叢書の構成要素として:B+
初回印象:A-
現在印象:C+
総合評価:B-
【概要】
宇宙英雄アダム・トロイが太陽系狭しと駆け巡り、宇宙犯罪者を退治し、宇宙の謎を解明し、宇宙少年の規範となり、天変地異から地球を救う。
【感想・批評】
良く言えば天真爛漫、純粋無垢、剛毅木訥。まさにお手本のような教育的スペースオペラです。
純粋無垢な幼年読者にとっては、悪くはないかと思います。実際、初読時(年齢10歳、SF歴が半年以内で、SFロマン文庫がSFの全てで、文庫読破進捗率半分程度(?)だったころ)の私にとってはなかなか読ませる作品だった記憶があります。
しかし悪く言えばあまりにひねりが無く、底が浅く、子供だましとも取れる作品でもあります。
SFロマン文庫の多くの巻が、何度でも読み返してしまう――成人してからも読み返してしまう――魅力を持っているのに対し、『宇宙人アダム・トロイ』は残念ながらそうではありませんでした。SF歴も1年くらいになると本作をかなり陳腐に、2・3年もすると極めて陳腐に感じてしまっていたような記憶があります。なのでSFロマン文庫の本としては再読回数はごく少なく、せいぜい5回か10回と言ったところです。
とは言え叢書全体のことを考えると、ある程度多彩な作品――対象年齢的にも作風的・コンセプト的にも――を収録するのは意義があると思います。また、あくまで直感ですが、メアリ・パチェットさんも別に子供相手だから手を抜いたわけではなくその能力やコンセプトの範囲内でベストを尽くした結果がこれだと想像されます。そのため一概に否定もできかねます。
【人と作品】
本書の後書きにも何かしら書いてあった気がしますが、思い出せないのでWeb情報で。
isfdbによるとメアリ・パチェットはオーストラリアの人で、1950年代から60年代にかけて7冊のSFを書いています。
うち、私の認知だと本書及び『月ロケットの少年』Send for Johnny Danger (1956)のみが邦訳されています(ameqlist及び国立国会図書館サーチでも確認)。後者については、私は成人してから読んだ記憶があるのですが、内容は全く覚えていません。あまり印象的でない作品だったのかもしれません。
あと考えてみると、パチェットはSFロマン文庫で唯一の女流作家ですね。
【雑感】
邦題の『宇宙人アダム・トロイ』ですが、どうなんでしょうか。『宇宙人ビッグズの冒険』にも同じことを感じるのですが、"Astroman"や"Spaceman"の訳語として“宇宙人”を使うのは私にはだいぶ違和感があります。自分としては“宇宙人”と聞くと今でもどうしても“ホモ・サピエンスではない異星の知的生物”を第一に思い浮かべてしまいます。
【ビブリオグラフィ > 異版情報】
SF少年文庫からSFロマン文庫へ。
SF名作コレクションには未収録。