SFロマン文庫第14巻、福島正実編『時間と空間の冒険』を紹介します。
現物が手元にない状態で本稿を書きましたので、至らない点はご容赦ください。
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【ビブリオグラフィ > 基本データ】
巻号:14
題名:時間と空間の冒険
副題:世界のSF短編集
原書:--
編者:福島正実
著者:アシモフ、クラーク、ハミルトンほか
訳者:福島正実、亀山龍樹ほか
イラストレーター:中山正美、金森達(?)
対象年齢:小学校高学年~中学校前半程度(※レビュアーによる見解)
【レビュアーによる評点 (S, A, B, C, D) 】
アンソロジーとしての総合評価:A
作品 | 評価 |
人工宇宙の恐怖(ハミルトン) | A |
AL76号の発明(アシモフ) | B+ |
宇宙少女アン(ネヴィル) | B |
大英博物館の盗賊(クラーク) | A |
武器なき世界(ヴォネガット) | A |
次元旅行(ハインライン) | A |
この宇宙のどこかで(チャド・オリヴァー) | A |
未来から来た男(ベスター) | C |
ロボット植民地(ラインスター) | S |
【概要と総合評価】
海外SFアンソロジー。文庫17巻『超世界への旅 日本のSF短編集』と対を成す巻と言えるでしょう。
全9編を収録。年少のSF入門者に初めての短編SFを読ませるというコンセプト(だと思われます)からすると、ジャンル・年代・方向性のバランスは絶妙で、また収録作品の一つ一つのクオリティも最高に近く、ほとんど完璧に近いアンソロジーです。さすがは福島正実と言わざるを得ません。
そもそも極論するとSFの醍醐味は短編にありです。そこを汲んで全30巻の叢書にアンソロジーを2冊入れてくるとは、実にニクい対応です。ぱっと思い出せる他の児童向けSF叢書で、アンソロジーの巻があるものは本叢書だけです。
ちなみに題名の割には、ヒーリィ&マッコーマスの『時間と空間の冒険』とは収録作品に共通性はありません。察するに「もうちょっと大人になったら、本家ヒーリィ&マッコーマスを読みなさい」という福島正実のメッセージかもしれません。
【各編の紹介】
(1)人工宇宙の恐怖 エドモンド・ハミルトン 亀山龍樹
言わずと知れた、『フェッセンデンの宇宙』の児童向け版。本書におけるクラシック枠兼マッド・サイエンティスト・テーマ枠というところでしょうか。
子供心になかなかの迫力を感じた記憶があります。
挿絵担当画家:記憶なし。
(2)AL76号の発明 アイザック・アシモフ 亀山龍樹
言わずと知れた『AL76号失踪す』の児童向け版。本書におけるロボット・テーマ枠というところでしょうか。
さっと読めて、まあ悪くはないのですが、ただそれだけと言いますか、さほど感心しなかった記憶があります。今にして考えても、アシモフのロボットものなら三原則を前面に押し出した作品を採用したほうが良かったのではないかと思いますね。
挿絵担当画家:記憶では金森達。
(3)宇宙少女アン クリス・ネヴィル 福島正実
言わずと知れた『ベティアンよ還れ』の児童向け版。
小学生当時はあまり好きにはなれませんでしたが(今でもクリス・ネヴィルは特に好きではない)、今にして思うとバランス的にこういうのが入っているのは悪くないですね。
挿絵担当画家:おぼろげな記憶では中山正美。
(4)大英博物館の盗賊 アーサー・C・クラーク 亀山龍樹
『時間がいっぱい』の児童向け版。本書における侵略テーマ枠? 犯罪テーマ枠?
個人的になかなか印象深かった作品。しばらくの間、わたしにとってクラークと言えば「『大英博物館の盗賊』の人」でした。
挿絵担当画家:おぼろげな記憶では中山正美。
(5)武器なき世界 カート・ヴォネガット 内田庶
『バーンハウス効果に関する報告書』の児童向け版。本書における超能力テーマ枠でしょうか。あるいは、今にして思うとヴォネガットを初めとしたハイブロウな作家を年少読者に初体験させるのも目的だったのかもしれませんね。
これまたハード・サイエンス・フィクション派だった当時の私からすると、異様な作風で実に印象的でした。これからしばらくの間、わたしにとってヴォネガットと言えば「『武器なき世界』の人」でした。
挿絵担当画家:おぼろげな記憶では中山正美。
(6)次元旅行 ロバート・A・ハインライン 内田庶
『時を超えて』の児童向け版。本書における次元テーマ枠。
ハインライン的ではないが(実際ケイレブ・ソーンダース名義で発表されたらしい)、興味深い、センス・オブ・ワンダーのある作品です。
挿絵担当画家:おぼろげな記憶では中山正美。
(7)この宇宙のどこかで チャド・オリヴァー 福島正実
チャド・オリヴァーの人類学SF "Transfusion" (1959) の児童向け版。人類学者チームがタイムマシンを駆使して北京原人を調査していた。しかし調べれば調べるほど謎が深まる。北京原人は進化してきたのでも移動してきたのでもなく、ある日突然無から生じたとしか思えないのだ。学者たちはしらみつぶしに「その日」の特定に近付いていったが……
言ってみれば本書における人類起源テーマ枠でしょうか。
個人的に印象深く、気に入っている作品です。今にして思うと超大物級の作家陣の中にただ一人、中堅級が混じっていて可哀そうな気がしますが。
挿絵担当画家:記憶では中山正美。
なおレビュアーは未読ですが、SFマガジンに「転移」という完訳も載ったことがあるようです(クーパーの『転位』と紛らわしい…)。
(8)未来から来た男 アルフレッド・ベスター 内田庶
『時と三番街と』の児童向け版。本書における時間テーマ枠でしょうか。
当時は今一つ感心しなかった記憶があります。今考えても、特にベスターの短編中で特段出来が良いとは思えないし、時間テーマSFなら古今東西にいくらでも選ぶべき作品はあると思います。本書唯一の失敗だと感じます。あと、ブラウンの『未来世界から来た男』と題名が紛らわしい。
挿絵担当画家:記憶なし。(ごく短い作品なので、約十ページに挿絵一つという本文庫の原則からすると、挿絵なしだったかも?)
(9)ロボット植民地 マレイ・ラインスター 南山宏
骨太でヒューマンな冒険SF。とある惑星にたった一人で無認可植民地を作っていた男が、合法植民地の危機を救うべく、遺伝子改良熊数頭を引き連れて危険な遠征に挑む。完訳版も同名で出ています。1956年ヒューゴー賞中編部門受賞作。
個人的には本書の白眉です。いわゆる短編の醍醐味とは反してしまいますが、中・長編としての良さは一流です。
挿絵担当画家:記憶では金森達。
【ビブリオグラフィ > 異版情報】
SF少年文庫(1971年) → SFロマン文庫(1986年) → SF名作コレクション(2005年)。
平成版は、現物は手に取ったことがないのでWeb情報ですが、収録作品が9編から5編に減らされているようです。