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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

SFロマン文庫を語る 第0回

0 はじめに
岩崎書店の児童向けSF叢書である「SFロマン文庫」について、数回に分けて語っていきたい。
投稿に至った理由は二点。一つは、前回エントリで述べたように同文庫は私が最初に出会ったSFであり、思い入れが深く、ただただ語りたくて仕方がないということ。二つ目は、その(客観的に見ても)高い価値の割には同文庫に関する言及が世間で全く見られないため、一私人がブログで語る程度でも結構人の役に立つのではないかと考えたためである。
第0回では叢書全体の概要について紹介したい。細かいビブリオグラフィは適宜ググっていただくとして、印象を中心に。
 
1 SFロマン文庫とは
  • 岩崎書店が1986年に発行した全30巻のSF叢書。
  • 1970年代の「SF少年文庫」の忠実なリプリント。2000年代には忠実でないリプリント「SF名作コレクション」も出版された。(下記「異版」で詳述。)
  • 対象年齢は小学校高学年~中学生前半程度を想定していると思われる。
  • ページ数は200~250ページ程度の巻が多い。
  • おおむね10ページに1枚、挿絵あり。表紙絵、口絵もあり(巻によっては目次や後書きにもちょっとしたカットが付いている)。
  • 訳者は福島正実、中上守、白木茂、塩谷太郎、土居耕、亀山龍樹など、一流どころで固めてある。
  • イラストは武部本一郎、柳柊二、中山正美、金森達、水野良太郎など、一流どころによる具象画。
 
2 ラインナップ
  • 長編小説を主とする。アンソロジーも2冊ある。
  • 英米の作品を主とする。日本の作品は福島正実、眉村卓など6冊ある。他にはロシア作品が2冊ある。
  • 現代の中堅作家の秀作といった感じの作品が多い。古典や有名作品は少ない。
  • 最初からジュブナイルとして書かれた作品と、大人向け作品のリライト、両方がある。前者が若干多い。
 
3 異版(下記「作品リスト」の表も参照)
  • 1970年~73年刊行の「SF少年文庫」がオリジナルであり、「SFロマン文庫」はそれをリプリントしたもの。各巻の内容、題名、イラスト等は同じであり、変更されているのは叢書名のみと思われる。
  • 一部の巻については、「SF少年文庫」と「SFロマン文庫」の間の時期に「フォア文庫」から刊行されており、入手難易度はそちらの方が低いかもしれない。(※レビュアーは『第四惑星の反乱』と『タイム・カプセルの秘密』のフォア文庫を百円コーナーで見つけた経験あり。)
  • 『宇宙怪獣ラモックス』のみ、角川文庫SFジュブナイルでリプリントされた。
  • 『宇宙人ビッグズの冒険』、『宇宙紀元ゼロ年』、『凍った宇宙』などの数冊は「SF少年文庫」以前の「少年少女宇宙科学冒険全集」(1960年)が初出。
  • 2005年から2006年にかけて、「SF名作コレクション」としてリプリントされた。ただし、30冊中20冊のみである(リストラ基準は概ね納得できなくもないが……)。また題名が変更されている巻がある。さらに全巻ともイラストが近年のイラストレータのもの変更されており、品質はオリジナルに比べると概して一枚落ちるし、何より大事な作品の雰囲気との適合度はかなり落ちると言わざるを得ない。なお2019年現在ですでに絶版である。
 
4 総評
全体的にクオリティは極めて高い。ラインナップ、訳文、イラスト等々、非の打ち所がない。一体どこの誰が企画・編集したのだろうか(福島正実か?)。ただし唯一の欠点として、日本作家の作品は総じて英米露に比べて見劣りのするように思われる。
個人的にはトム・ゴドウィン『宇宙の漂流者』、ゴードン・R・ディクスン『宇宙の勝利者』の2冊が白眉かと思う。
 
5 作品リスト
一覧は次のとおり。
ついでにレビュアーによる五段階評価も上げる。(※S:非常に面白い。バイブル。A:かなり面白い。B:まあまあ面白い。C:さほど面白くない。D:全く面白くない。)ただし、小学生当時の価値観と現在の価値観の折衷による評価である。また古典的名作の内容と価値については周知の事実であるため評価しなかった。
なお、便宜上8カテゴリに分類した。今後はおおむね1カテゴリを1投稿で紹介していきたい。
No. 題名 著者 訳者 イラストレータ 評価 カテゴリ 少年少女宇宙科学冒険全集 SF少年文庫 フォア文庫 角川文庫 SFロマン文庫 SF名作コレクション
1 第四惑星の反乱 ロバート・シルヴァーバーグ 中尾明 柳柊二 A ジュブナイル O(※6)
2 太陽系の侵入者 ポール・フレンチ 塩谷太郎 中山正美 B ジュブナイル(ラッキー・スター) △(※3)
3 わすれられた惑星 マレイ・ラインスター 矢野徹 石田武雄 A+ 現代リライト
4 宇宙人アダム・トロイ メアリ・パチェット 白木茂 金森達 B ジュブナイル(幼年)
5 うしなわれた世界 コナン・ドイル 土居耕 佐藤照雄 --- 古典リライト
6 まぼろしのペンフレンド 眉村卓 --- 岩淵慶造 C+ 日本 O(※4)
7 アーサー王とあった男 マーク・トウェイン 亀山龍樹 DC・ビアード(※1) --- 古典リライト
8 迷宮世界 福島正実 --- 武笠信英 D+ 日本
9 生きている首 アレクサンドル・ベリャーエフ 飯田規和 武部本一郎 --- 古典リライト
10 作戦NACL 光瀬龍 --- 金森達 D 日本
11 宇宙怪獣ラモックス ロバート・A・ハインライン 福島正実 依光隆 A+ ジュブナイル O(※5)
12 大氷河の生存者 ロバート・シルヴァーバーグ 長谷川甲二 中山正美 A ジュブナイル
13 宇宙の勝利者 ゴードン・R・ディクスン 中上守 武部本一郎 S- ジュブナイル
14 時間と空間の冒険 世界のSF短編集 福島正実(編) 亀山龍樹ほか 中山正美(ほか?) A アンソロジー △(※10)
15 宇宙紀元ゼロ年 ビタリ・メレンチェフ 北野純 岩淵慶造 A- ジュブナイル
16 タイム・カプセルの秘密 ポール・アンダースン 内田庶 金森達 A ジュブナイル
17 超世界への旅 日本のSF短編集 福島正実(編) --- 中山正美 C アンソロジー
18 なぞの第九惑星 ドナルド・ウォルハイム 白木茂 依光隆 A ジュブナイル(幼年)
19 宇宙大オリンピック ミルトン・レッサー 矢野徹 武部本一郎 C+ ジュブナイル(幼年) O(※7)
20 フェニックス作戦発令 福島正実 --- 依光隆 D 日本
21 タイムマシン H・G・ウェルズ 塩谷太郎 岩淵慶造 --- 古典リライト
22 宇宙人ビッグスの冒険 ネルソン・ボンド 亀山龍樹 水野良太郎 A+ 戦前リライト O(※8)
23 宇宙の漂流者 トム・ゴドウィン 中上守 中山正美 S 現代リライト O(※9)
24 消えた土星探検隊 フィリップ・レーサム 塩谷太郎 金森達 A ジュブナイル
25 百万の太陽 福島正実 --- 柳柊二 D 日本
26 宇宙の密航少年 リチャード・M・イーラム 白木茂 伊藤展安 B+ ジュブナイル(幼年)
27 凍った宇宙 パトリック・ムーア 福島正実 武部本一郎 B ジュブナイル(幼年)
28 木星のラッキー・スター ポール・フレンチ 土居耕 武笠信英 B ジュブナイル(ラッキー・スター) O(※2)
29 まぼろしの支配者 草川隆 --- 金森達 B 日本
30 夢みる宇宙人 ジョン・D・マクドナルド 常盤新平 水野良太郎 B 現代リライト
※1 D・N・ビアードとする資料が多いが誤記と思われる。
※2 この版の題名は『九号衛星のなぞ』。
※3 角川文庫SFジュブナイルに同じ原作の翻訳である『天狼星の侵略』が収められているが、中尾明訳であり、岩崎書店版の直接的なリプリントではない。
※4 角川文庫SFジュブナイルではなくただの角川文庫緑。
※5 角川文庫SFジュブナイル。
※6 『アルファCの反乱』に題名変更。
※7 『惑星オピカスに輝く聖火』に題名変更。
※8 『宇宙飛行士ビッグスの冒険』に題名変更。
※9 『宇宙サバイバル戦争』に題名変更。
※10 本来9編を収録していたところ、5編に削減。
 
6 追記:編纂の経緯に関する考察
 
7 関連
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