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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

SFロマン文庫を語る 第6回

第6回は、SFロマン文庫第6巻、眉村卓の『まぼろしのペンフレンド』を紹介します。
レビュアーは本叢書中ではおそらく比較的後期に読んだと思われます。

【ビブリオグラフィ > 基本データ】
巻号:6
題名:まぼろしのペンフレンド
原書:--
著者:眉村卓
訳者:--
イラストレーター:岩淵慶造
対象年齢:小学校中学年~小学校高学年程度(※レビュアーによる見解)
 
【レビュアーによる評点 (S, A, B, C, D) 】
 SF的着想の良さ小説としての良さ総合評価
まぼろしのペンフレンド(長中編)BB-B-
テスト(短編)CCC
時間戦士(中編)BB+B
本全体としての総合評価:C+
 
【梗概】眉村卓の個人作品集。三編を収録する。
 
【梗概 > まぼろしのペンフレンド】
眉村卓が得意とする少年向けスリラーものの中編。
舞台は現代日本。主人公は普通の少年。一万円札入り謎手紙の発生、車一台分のアイスクリームが一瞬で溶解、ドッペルゲンガー出現、……実害は少ない怪事件が相次ぐ。
(※ネタばれ回避のため、以下白文字)
主人公は謎を探るうち、それが異次元の機械知性による侵略であること知る。彼らは高い科学力を有するが、人間に対する理解が不十分であるためしばしばボロを出していたのだ。
彼らは人間を学ぶため、主人公を捕虜にして観察を行う。監視役兼学習役の女アンドロイドは日々人間らしくなっていく。このままでは人類の敗北は間近だ。
しかしヒロインと女アンドロイドとの葛藤や警官隊の働きなどもあり、侵略者たちは撤退した。主人公の心にわだかまりを残して。
(※ネタばれ回避のため、以上白文字)
 
【梗概 > テスト】
少年向けのちょっとした短編。
舞台は現代日本。主人公は悩める少年。創作に打ち込み、頭角を現し始めている。
彼はある日、怪人物により、異次元世界に連れ去られる。
(※ネタばれ回避のため、以下白文字)
彼がそこで見たものは、牧歌的な世界、子供のように遊びまわる人々だった。
誘拐者が言う。「ここは科学技術の進歩によって理想郷が実現された世界であり、それにより人類が絶望的なまでに退化した世界である。我々はこの世界を立て直す指導者をリクルートしているのだが、君はテストに不合格だ。我々が期待していた君の能力――文学的能力は安定していない。分析したところ、不満こそが君の原動力だったのだ。申し訳ないが君には帰ってもらう」
娑婆に帰った少年は、超科学による分析を踏まえ、これからの道を考えるのだった。
(※ネタばれ回避のため、以上白文字)
 
【梗概 > 時間戦士】
無国籍風の中編。
人類は「鋼鉄都市」のような機械化都市に閉じこもり、停滞の時代を迎えていた。そんなある日、地球を謎の侵略者が襲う。その正体はヒューマノイドということ以外全く不明。人類の敗色は濃厚だった。
主人公の青年は防衛軍に志願し、時間偵察機で斥候に出るが、母船を見失う。
(※ネタばれ回避のため、以下白文字)
さまよった挙句に一つの都市にたどり着いた彼は、侵略者たちと出会い真実を知る。彼らは遠未来人だった。彼らは、停滞に陥っていた祖先に、カンフル剤を打ちに来ていたのだ。なぜなら彼ら自身の歴史に、その出来事により人類が再興したと記録されていたからである。
主人公は遠未来人の仲間になるよう誘われるが、辞退する。自分の成すべきことは自分の時代を盛り立てることだと決意したからである。
(※ネタばれ回避のため、以上白文字)
 
【感想・評価】
本文庫の国産作品に共通した欠点であるが、書かれた時点の日本の少年向けにあまりに特化しているため、必然的に賞味期限が短くユニヴァーサリティに欠けている。そのため、同文庫の海外作品の上位・中位陣と比べると見劣りすると言わざるを得ない。SF少年文庫の時点では当然最適だったのだろうが、SFロマン文庫の時点だとかなり厳しかったと思われ、もちろん現在では論外である。(逆に、ある種のクラシックとして楽しむ、という読み方はあるだろうが…)
とは言っても本書は同文庫の日本作品の中ではまだ良い方ではある。眉村卓の持つ独特の味、そして(コンセプトの範囲内での)誠実な作品作りは評価したい。
あと岩淵慶三のイラストは非常に魅力的。レビュアーが挿絵画家の存在を意識したのはここらへんが最初かもしれない。
 
『まぼろしのペンフレンド』は、眉村卓の最も得意とする(少なくとも、世評としてはそう見なしている)タイプの作品で、その時、そのコンセプトの範囲内ではかなりの秀作だったと言えるだろう。また、女アンドロイドとのやり取りはエドマンド・クーパーの『アンドロイド』を思わせる。
 
『テスト』は特に見どころなし。
 
「時間戦士」は現代日本の少年を主人公にしていないため、上記のような欠点からはだいぶ救われている。
 
【ビブリオグラフィ > 異版情報】
この三編から成る作品集としては、SF少年文庫(1970年) → 角川文庫(1975年) → SFロマン文庫(1986年)。
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