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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

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ライマン・フランク・ボーム『オズのかかし』感想

〈オズ〉シリーズ No.9


急に〈オズ〉シリーズが読みたくなって国会図書館で検索してみたところ、幸いにしてハヤカワ文庫版の一部が閲覧可能だったため久しぶりに再読してみた。

記憶していたとおりやはりこの巻はシリーズ中でも屈指の良作だ。深刻なマンネリズムに陥りがちな〈オズ〉シリーズにおいては珍しく、新鮮なアトモスフィアが保たれている。別シリーズのトロットとビル船長を主役に据え、脇に怪鳥オークという名脇役を配し、死の砂漠の外側からオズの国の辺境を舞台にしたことが功を奏している。

作品の本題とはあまり関係ないが、オーク(Ork)族の身体構造――尻尾のプロペラで推進し、固定翼で浮揚する――が実に興味深い。ライト兄弟以降進展著しかった固定翼機の原理をファンタジーに取り入れたということだろうか。これ、『オズのオズマ姫』の「クルマー」族と共に、SFにおける車輪/プロペラ生物の走りではないだろうか。

ところで(本巻に限った欠点ではないのだが)シリーズのいつからか登場した「オズの国では誰も死なない」という設定はやはり最悪の失敗ではあるまいか。物語から緊張感を失わせしめ(*1)、なおかつ多くの矛盾を産み(*2)、その割に何のプラスの効果も上げていない。

あと欠点と言えばやはりハヤカワ文庫版はイラストがもう一つだ。新井苑子のイラストレーションはあれはあれで悪いものではないしコンセプトが必ずしも同じではないので単純に比較はできないかもしれないが、原書のジョン・R・ニールのそれ(*3)と比べるとやはりチープに見えてしまう。


*1 何をされても死なないので、登場人物がどんな危険に遭っても恐れる必要がない。…あるいは誰もが不死なのは誰もが定命であることよりも恐ろしいかもしれない。例えば本作の先代王様のように底なし沼に沈められた被害者は呼吸もできないまま死ぬこともできずに未来永劫苦しみ続けるのか? 先々代の王様のように千尋の谷から突き落とされた被害者は粉々になったまま未来永劫苦しみ続けるのか? また、暴力による被害がなくてもその未来は悲惨である――人が死なない一方人が生まれ続けるならオズの国はいずれ人口過剰に見舞われるのは必定だ。何千何万、いや何億という人々が食料が枯渇しても飢え死にもできずに苦しみ続ける羽目になるのではないか?
*2 動物も死なないのなら登場人物や肉食動物は何を食べて生きているのか? 菜食主義か? 『オズの魔法使い』の序盤でライオンが野生動物を狩って食べていることが示唆されていたのはどう解釈すれば良いのか?
*3 現代ならインターネットで無料で閲覧できる!
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