〈オズ〉シリーズ No.2
順序がメチャクチャだが(*1)ようやく第二巻を読むに至った。
〈オズ〉シリーズが徐々に衰退したのではなく、一挙に衰退したことがようやく確認できた。(*2)
例えば世界観(*3)。一巻ではライオン、カリダー、有翼猿、大自然、その他諸々の要因によりいつでも一歩間違えば死の危険があった。南の善なる魔女グリンダが存在していると言っても別に全知全能でもなければ主人公たちの手厚い保護者でもなかった。そのことが物語に(寓話的でもありフェアリーテイル的であるのに加えて絶妙にバランスの取れた)シリアスさをもたらしていた。それが本巻ではエメラルドの都が「編み棒」で武装した四百人の娘たちに攻略された時点で世界観が完全に変わっており全てが茶番と化してしまっている。テーマ性も実に薄く、登場人物にも魅力がなく、超自然的要素も凡庸で見どころがない。
…まあそれはそれとしてあえて好事家的な観点から本巻の興味深い点をいくつか。
・大魔法使いオズに政権を奪取された王の名前が「パストリア」だと判明したこと(p211)。『地下の国』でオズマが「かつてのオズの国の為政者の名前は男性だとオズ、女性だとオズマ」と発言していた事とは一見矛盾するが、幼名/個人名みたいなものと成人名/尊称みたいなものの違いだと解釈すれば矛盾はない。
・先王パストリアがすでに「死んでいる」ことが明言されている(p211)。やはりシリーズ初期の時点だとオズの国でも人は死ぬものだったのだ。また、想像するに彼の死は政権被奪取に伴う暴力的なものであったのだろう。
・大魔法使いオズの治世+かかしの治世は、チップことオズマが赤ん坊からローティーン(ミドルティーン?)の少年(少女)に成長するまでの短期間でしかなかったと判明したこと。
・カラスの巣にあった大量のドル札(p195~)。オズの国は地理的にアメリカに近いのだろうか? それとも『オズへ続く道』のような一時的なワープ路がしばしば形成されるのだろうか?
・魔女モンビによる大魔法使いオズへの評価。「あいつは知っているかぎりの魔法を教えてくれおった。なかにはよい術もあったが、ただのインチキもあったわな。」(佐藤高子訳、p238)。この発言は実に示唆に富んでいる。少なくともオズの国の二流の魔女の眼から見て、大魔法使いの「魔法」には「本物」もあったということだ。オズの国では知られていなかった科学知識だろうか?
*1 ハヤカワ文庫の刊行順もメチャクチャだが…。
*2 本巻の出来は一巻を除く作品の中では中の上くらいだろうが、一巻に比べれば月とスッポンだと言わざるを得ない。一巻という本体に対し、二から十四巻という長い長い蛇足! やはりポピュリズム――「全国の子供たちからの熱烈な要望に応える」などという美辞麗句で表現されているが――は芸術をダメにする。
*3 誤用ですみません。