1960年代の少年SF漫画の傑作、『サイボーグ009』シリーズ。その中でも最高傑作との呼び声高い「地下帝国ヨミ」編。久しぶりに再読していたらとある気付きがあったので書き記しておくことにした。
1.プワワーク人
「プワワーク人」(コマによっては「プワ=ワーク人」とも表記)の由来は「Poor Work」であろう。正直、小学生でも察しが付くであろう自明のことであるが、灯台下暗しと言おうか何と言うか数十回(百回以上?)熟読してようやく気付いたものである。
ザッタンに搾取され、黒い幽霊団に搾取され、良いとこ無しで終わる彼らにぴったりのネーミングだ。とは言っても作中の地底世界の生態系が地上の資本主義社会のシステムの隠喩だとか労働問題を風刺しているだとか、そこまで考えるのは深読みであろう。
2.ザッタン
さて、被支配者プワ=ワーク人に明らかな語源があるとすると支配者ザッタンにもそれと対となるような語源があるはずである。しかし「企業家」だとか「資本家」だとか、そういうタームをどうこねくり回しても「ザッタン」にはならない。
そこでいったん社会問題的なテーマから離れて冷静に大局を俯瞰してみたところ、正解が見えてきた。「ザッタン」の由来は「ターザン」であると考えられる。
SF者でない人からすると意味不明であろうから一から説明しよう。まず「地下帝国ヨミ」編の地底世界はエドガー・ライス・バローズの「地底シリーズ」(別名「ペルシダー」シリーズ)がモチーフになっているのは明らかである。巨大なドリルを備えた地底車、爬虫人・原人(旧人?)・人類という三種の知的生物(*1)、地上では絶滅した古生物……共通点は枚挙に暇がない(*2)。特にペルシダーのマハール族とヨミのザッタンには
・爬虫類である
・有翼である
・人類を奴隷化、しかも食用化している
・ESP、特に催眠能力を有する
というあからさまな共通点がある。
そしてザッタンの命名に至った石ノ森章太郎の思考回路は次のようなものだと想像される。
「マハール族、いいね! モチーフにさせてもらおう。」
「名前は何にするかな、アナグラムでルーハマ人とかにするかな? いや語感が悪いしひねりが無さすぎる。」
「適当に語感のいいカタカナにする手もあるけど、バローズへのリスペクトを示すためにバローズ由来だと察しの付く名前にしたいなあ。ズーロバ人? いや語呂が悪いな。」
「バローズの代名詞と言えば素人的には「ターザン」だよな。じゃあタザーン、ンザータ、ザターン……そうだ、ザッタンで行こう!」
あくまで直感であり想像であるがかなり真実に近いのではなかろうか。
3.ルタール人
これが分からない。ペルシダーでいうサゴス族に相当するのだが…
誰か教えてください。
4.バン=ボグート
これはまさしく小学生のころから大SF作家のA・E・ヴァン・ヴォークトが由来だと分かっていたが、脈絡はいまだに全く分からない。ヨミ編とヴァン・ヴォークト作品の間に関連性は見いだせないし、バン=ボグートとヴァン・ヴォークトのキャラクター性にも関連があるようには思えない。敢えて言えばヴァン・ヴォークトの終生のテーマである「超人テーマ」とサイボーグという主題の間にはつながりが無くもないが…。
*1 ペルシダーだともう一種、人猿(マン・エイプ)も出てくるが重要性は低いし…
*2 そのことを非難する意図は全くない。念のため。古典をリスペクトし、オマージュするのは創作者としてむしろ当然のことだし、実際少年漫画にうまく活用できている。良いオマージュは原典にも自身にも得になる、良いことである。また本作は日本の少年にクラシックSFを紹介しようという啓蒙的な意図も感じる。