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ロバート・シルヴァーバーグ。私の中では(『第四惑星の反乱』、『大氷河の生存者』を抜きにしても)かなりの大物作家の一人であるし、一時期は世間的にもそうだったであろう。しかし多作が災いしてか作品には出来不出来があることと、多作の割にこれと言った看板シリーズや得意サブジャンルがあるわけでもなく、日本語への翻訳が(おそらく)系統的ではないし、なおかつせっかく邦訳した作品のPRが(一部の名作を除いて)あまり盛んではないという多重苦に悩まされ、同時代の同格の作家と比べれば今日ではほとんど忘れ去られていると言っても間違いはなかろう。
かく言う私も、先日たまたまワゴンセールでシルヴァーバーグ数冊を見かけて、ずいぶんと読み残しがあることをようやく意識したものである(言い訳をもう一つ加算するならば、似たような題名の訳書がちょくちょくあるせいでまだ読んでいない本ともう読んだ本を混同しがちだったこともある)。というわけで反省して『一人の中の二人』(創元)、『いまひとたびの生』(早川)、『ガラスの塔』(早川)を購入。
まずは『一人の中の二人』から読んでみた。
2010年代(*1)の未来社会(原書は1972年刊行)。凶悪犯罪者は懲役刑や死刑ではなく、「改造センター」で科学技術の粋を尽くした精神改造を施され、別の名前、別の経歴を与えられて「第二の人生」に漕ぎ出すシステムになっていた(*2)。主人公ポール・メーシーも「改造センター」を出所したばかりの新人。その「前世」は大物彫刻家にして連続強姦犯のナット・ハムリン。健全で地道な生活を送るはずだったメーシーだが、道でハムリンの元モデル兼情婦のリッサと出会ってしまったことで歯車が狂い出す……といった内容。
主題が精神改造技術ではなく、それによる社会変化でもなく、あくまでメーシー/ハムリンの内面、メーシーとリッサの関係であり、つまりサイエンス・フィクションというより文学である。私の主食とは違うが、そのコンセプトとしてはほどほどによく書けているのではなかろうか。
一つだけ無粋な突っ込みをさせていただければ、「改造センター」は精神改造だけではなくついでに整形手術もしておけばいかなる問題も発生しなかったのではないか。そう思ってしまう。
あと、巻末の「訳者あとがき」で中村保男が「自分ならこのテーマはこういう結末に持っていく」というような主張を大いに語っていて意外に思った。評論家を兼ねていない翻訳者――特に創元系の翻訳者――は自己主張はしないイメージで、中村保男も例外ではないと思っていたので。
*1 これを2020年代に読んでいる事実で、複雑な心境になる。
*2 全く方向性は違うが、そこを起点とするという意味では『宇宙の一匹狼』を思い出す。
2023/10/23追記:これを機に既読/未読をしっかりチェックしておこう(ameqlist様に基づき単行本を列挙)。全27冊のうち既読14冊・未読13冊。全くもって手ぬるい! 絶対に読むつもりのない本を除いても全23冊のうち既読14冊・未読9冊。練達のSF読者として自慢できる水準ではない。順次こなして行きたい。
なお、短編集が27冊中1冊しか存在していないという奇妙な事実に気づいた。どういうことだろう?