『ボートの三人男』は、SFではないにも関わらず私にとって座右の書の一つである。その作者であるジェローム・K・ジェロームの作品がほとんど日本語に翻訳されていない……と言うより、どのような作品があるかの情報すら入って来ない……ことを長年残念に思っていた。
そんなある日、月例タスクである、出版社の公式サイト巡回をしていたら国書刊行会から本書が刊行されていると認知した。驚いた。早速読んでみた。明記はないが、日本版オリジナル短編集のようだ。収録作品が多いので、気になった少数の作品のみ抜粋で感想を述べる。
『食後の夜話』……『ボートの三人男』の挿話にありそうな空気感。悪くない。
『ダンスのお相手』……これはSF読者なら人造人間テーマの古典として読んだ事があるだろう。『ダンシング・パートナー』として邦訳がある。
『骸骨』……よく言えば正統的、悪く言えば型どおりの恐怖小説。表題作になるほどの力は感じないが、私は何かを読み落としているだろうか…?
『新ユートピア』……これはSF的に着目に値する作品であろう。(当時けっこう流行っていたらしい)社会主義系の社会改良家たちの“成果”たる29世紀を描く。
『四階に来た男』……狭義の空想小説ではないが、興味深く読めた。やはり“あの男”のメタファーというか再来を描いた作品なのだな。欧米人はどう読むのだろう。
まとめ:ジェローム・K・ジェロームの、これまで知らなかったしこの本が刊行されない限り知ることもなかったであろう作品が大量に読めて良かった。実に国書刊行会らしい、志のある刊行物だ。この調子でこれからも末永く活動して欲しい。