少年時代にハヤカワ・SF・シリーズ版を一度や二度は読んでいたはずだが、当時はあまりピンと来ていなかった記憶がある。そのため長年のあいだ復習することもなく現在に至っていたのだが、今回はたまたまプロジェクト・グーテンベルク版(上記を電子化したものだと思われる)が目に付いて何となくモチベーションが上がったことから久しぶりに再読してみたものである。
大半の作品はどれも内容的にはそこまで大したものではない――「同時代のSF作家と比べて段違いに科学的」という触れ込みもだいぶ怪しく思える――が、独特のピリリとしたアトモスフィアは素晴らしい。この要素に限れば、『月は地獄だ!』のような後年の傑作にも勝っている。SFが若く、キャンベルも若く意欲的であったことが感じられる。
私にとって初期キャンベルと言えば「アーコット、モーリー&ウェイド」シリーズのイメージで、「科学的」かもしれないが文学的深みには全く欠けると思っていた。しかし久しぶりに本書を読んで自分の考えが一面的で不当であったことがようやく理解できた。不見識を恥じる。
以下、個々の収録作について。
『影が行く』:秀作だ。従来型の、鬼面人を驚かすばかりのベムと比べて本作の宇宙生物の迫真性よ。本作がホラーの文脈であまりにも安く扱われているのが惜しまれる。
『薄暮』『夜』:遠未来の物悲しい雰囲気が良い。キャンベルがこれほど詩情に優れた作家だとは認識していなかった。考えて見るとモチーフ的には『最終進化』とも共通性があり、キャンベルの遠未来感が窺えて興味深い。
『盲目』:本書中では最も強くキャンベルの良さが結実した、優れたSF小説だと思う。科学的アイディアとプロットが有機的に結びつき、相乗効果を上げている。パルプSFに氾濫する「科学者」や「新発明」というテーマが1930年代中期の時点でこれほどまでの完成を見ていた――そしてそれらのテーマが社会学テーマへの進化の片鱗をすでに見せていた――とは、これまで認識が薄かった。こりゃキャンベルが天下を取っていたのも頷ける。
『エイシアの物語』:特に見どころが見いだせなかった。