講談社「S.F.シリーズ」Vol.2
昭和33年
訳:亀山竜樹(龍樹)
原著:THE 27 th DAY by John Mantley
翻訳SF史においてあまり語られないレーベルである講談社「S.F.シリーズ」の一冊。そこいらの図書館にもそうそう所蔵されているようなものではないし、中古市場での流通もほとんど見られないし(神保町でなら1回くらい見かけたかな?)、そもそも大半が他の然るべき出版社からリプリントされているためこれまで着目していなかったのだが、他では読めない珍しい作品である本巻が国立国会図書館デジタルコレクションの個人送信サービスで読めるようになっていることに気づき、読んでみたものである。
内容はファースト・コンタクトもの……より正確に言うと「異星人が仕組んだゲーム」もの。十年後の近未来(1960年代)、地球型惑星を求めている異星人が地球に目を付ける。しかし彼らの掟では正面からの侵略は許されておらず、代わりに彼らは地球人を自滅に導くゲームを仕掛ける。世界各国から5人の老若男女をランダムに選び、世界の軍事バランスをひっくり返せるような超兵器を与え、その情報を世界に広報したのだ。たちまち沸き起こる狂騒、スパイ合戦、そして熱戦の兆し。ゲームの期間は27日間。人類は生き延びられるのか――
着想は悪くないと思うのだが、実際にはあまり面白くなかった。何と言おうか、すべてが「下手」なのだ。プロットがダメ、ストーリーがダメ、キャラクターもダメ。せっかくの着想が全く活かされていない。味があるとか、一つでも独創的なガジェットが出てくるとか、そういう美点も特にない。結末に意外性も説得力もない。そしてSF文学にとって必要不可欠なセンス・オブ・ワンダーが極めて希薄なのが致命的である。「S.F.シリーズ」の中であまりにも浮いている。この作者、SFプロパー作家ではないどころかプロ作家ですらないんじゃないのか――と思って少し調べたら案の定SFとは無関係な脚本家である模様(英語版Wikipediaによる)。
原文が良くないのか翻訳が良くないのか両方なのか、訳文が今一つ読みづらいのも本書の良くないところだ。亀山龍樹は好きな翻訳家なのだが、本書はそのキャリアの初期に属するものであり、当時はまだ未熟だったのだろうか。また、「全体的に何となく読みづらい」のみならず、今日では考えられないような珍奇な訳語が見られることをSF翻訳技術史の観点から興味深く思った。例えば
①「陸地(テラ)」。これは明らかに「地球(テラ)」とすべきだろう。
②頻出する「異邦人」。文脈的に原語はAlienと思われ、そうであれば「異星人」か「宇宙人」とすべきだろう。
また、誤りではないし珍奇とまでは言えないが「惑星」でなく「遊星」が一貫して使われているのも興味深い。
あと、SFは関係ないが『ハムレット』の引用句に対する訳注でホレイショと詩人ホラティウスを混同しているのはポンコツの極みであり、まともな出版社の出版物とは思えない。編集者・校正者は何をやっていたのか?