久しぶりに再読。
面白い。シリーズ初期の傑作の一つ……いやシリーズ全体を通しても代表作の一つと言えるだろう。
本書は最もキャプテン・フューチャーらしいキャプテン・フューチャー小説である。太陽系を揺るがす科学的悪事を企む悪党との丁々発止のやり合い、特に変装・潜入しての騙し合い、超古代文明の謎解き合戦、そして科学勝負。CFをCFたらしめている要素がほぼ全て、高い水準で入っているのである。
それと同時に本書は最もCFらしからぬCF小説でもある。CFシリーズに典型的な「敵の首魁の正体を暴く」要素が完全に欠けているからである。代わりに本書ではカーティス・ニュートン最大の好敵手であるウル・クォルンが堂々と悪役を務める趣向になっている。CFの悪役と言えばただの品性下劣な卑怯者が多いがウル・クォルンは数少ない例外で、自分なりに筋の通った、知性と勇気とカリスマ性を兼ね備えた悪者であり、カーティスと敵同士ながらも認め合いリスペクトし合う描写はとても心地よく読める。
プロットにしろガジェットにしろ、隅々まで神経の通った細やかな作りにエドモンド・ハミルトンの職人気質を感じる。特に「歓楽の星」とそこの「ラジウム・ルーレット」でのギャンブル合戦のくだりはピカ一のアイディア力の賜物であり、SF史に燦然と輝くものであろう。
福島正実だったか、「ハイブロウ」派の論客が本書(の金背版)を「辛うじて辻褄を合わせただけの愚作」と評したと以前どこかで読んだ記憶があるが、本当にそうなのであればその論客はSFが分かっていないかスノビズムで目が曇っていたと言わざるを得ない。