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順不同で挙げていこう。
その1 やけに1.6kmの倍数とか2.5cmの倍数が出てくる
白けるんじゃカス。そのままマイルとかインチにしておけや。お前、日常会話で「スーパーまで3.2kmある」とか「郵便局まで4.8kmある」とか言うのか?言わないだろ?え?だったらお前の本の登場人物はなんでそんなセリフを吐くんだ?答えてみろや。おい。こら。ちょっとは頭を使え。金もらって仕事してるんだろ?ああん?
……上品モードON。
やけに1.6kmの倍数が出てくる翻訳は、2つの誤謬を犯している。
第一の誤謬は、原文の意図を正しく汲めていないことである。多くの場合「スーパーまで2マイルある」という文章の意味を「スーパーまで(1.9マイルではないし2.1マイルでもなく、びったり)2.0マイルある」と捉えるのは誤りであって、あえて言うなら「スーパーまで(1マイルではないし3マイルでもなく、おおむね)2マイルある」と捉えるべきである。つまりは有効数字の問題である。
であるからどうしてもメートル法に換算したいなら「スーパーまで3kmある」とか「郵便局まで5kmある」とでもするべきであろう。
もちろん、軍事的・海事的な文脈や本格ミステリのアリバイに係る文脈などにおいてはその限りではない。
第二の誤謬は、そもそも特にメートル法にする必要がないのに無理に換算していることである。現在の日本国において「字の本」を読む人間は人口の一割もおらず、すなわちエリートである(※個人の感想です)。殊に、英米翻訳文芸を読もうという人間ならヤード・ポンド法の基本および加減乗除くらいは弁えていると想定して良い。その程度の認識もない翻訳者は人を馬鹿にしすぎだし、なおかつ彼らは大抵第一の誤謬を同時に犯すのが通例だから彼ら自身が馬鹿である。つまり馬鹿に馬鹿にされるわけだから許容しがたい。
であるから先の例文はそもそも「スーパーまで2マイルある」「郵便局まで3マイルある」として何の問題もない。
悪例見本を具体的に挙げるのは差し障りがあるから、好例見本を上げる。井伏鱒二訳の「ドリトル先生」シリーズである。原文は当然ヤード・ポンド法だが、翻訳はメートル法に統一されている。例えば『ドリトル先生のサーカス』において先生とオットセイのご婦人の間で
「もう、どのくらいきましたかしら?」「ざっと、1キロ半だ」(※以上、第二部第5章の冒頭部から引用)
という会話が出てくるが、さすが本物のプロの訳文と言うべきであろう。おそらくは児童向けという制約のため敢えてメートル法に換算する方針なのだろうが、そのことと訳文の違和感の無さを両立している。ここで無能な翻訳者なら「1.6キロだ」とかしていたに違いない。
その2 イギリスの複雑な通貨単位に関して何の説明もない、もしくは何の役にも立たない注釈しかない
ファージング、ペニー、グロート、シリング、ポンド、ソヴリン、ギニーの関係なんて一々覚えていられるかボケ。こちとらお前と違ってそんなに暇じゃねえんだよ。巻頭か巻末に換算表でも付けておけ。物価の換算表も忘れるな。「ペンス:ペニーの複数形」みたいなゴミ注釈だけ付けて仕事したつもりになってんじゃねえぞ死ね。
……上品モードON。
イギリスの複雑な通貨単位に関して何の説明もない、もしくは何の役にも立たない注釈しかない翻訳は二つの誤謬のどちらかを犯している。
第一の可能性は、翻訳者が読者の知識を高く見積もり過ぎているという誤謬である。すなわち、読者がファージング、ペニー、グロート、シリング、ポンド、ソヴリン、ギニーの関係や全ての年代の物価を把握している、と想定している可能性である。これは少々高望みであろう。仮にインテリであっても、門外漢であればそこまでは把握していなくても全くおかしくないし、おそらくはストーリーを楽しむための娯楽としての読書活動にそこまでを求めるのは厳しいのではないだろうか。
第二の可能性は、翻訳者自身がそもそも知識を持っていないので然るべき処理ができていないという誤謬である。これは救いがたい。こういうことは無いと信じたい。しかし文法偏重の――あるいは最近であれば「えーかいわ」偏重の英語馬鹿であればすでに廃止されたイギリス通貨単位やヴィクトリア時代の物価を把握していないということもあり得るのではないか、そう思えてしまう。
その3 動植物の名前がなぜか標準和名
文脈を読め文脈を。そして自然に訳せ。その登場人物はその状況で「ヨーロッパヤマウズラ」とか言うのか?ウズラで良いんだよウズラで。アホウドリにも劣るやつだなお前は。
その4 後書きや脚注で訳語について言い訳、もしくは自慢
言い訳にしても自慢にしても、どちらにしてもとにかく白ける(そしてどちらの場合も大抵その訳語は不適切という経験則あり)。プロなら黙って訳せ。「私がルールブックだ」くらいの意識を持て。歌うな。さえずるな。有料な書籍はお前の日記帳じゃねえんだ。どうしても余計なことが書きたきゃチラ裏にでも書いとけ。人様の読後感を汚すな。
その5 Kindle自費出版の有料な素人翻訳
興味を惹かれる作品に限ってクォリティと価格が釣り合っていない。むしろ読んでるこちらが金をもらいたいくらいだ。
総合すると、「考えていない」「プロ意識が無い」「無能」。これらが露呈していることがよろしくない。