鶴書房SFベストセラー。あまり定見を感じられないレーベルであるが、ちょこちょこと珍しい作品が混じっているレーベルでもある。本書はその筆頭で、戦前ロシアの地底もののクラシックである。SF史においてはしばしば言及される作品ではあるが、このレーベルからたまたま訳出されなければ未来永劫そのままだったかもしれない。
1910年代、地球空洞説を密かに信じる学者が北極探検の名目で探検隊を結成し、北極に開いた大穴から地底世界に至る。地底世界は地球の中心に位置する発光体で照らされ、古生物が生き残り、鉱物資源が豊かであった。探検隊は恐竜狩りをしたり巨大蟻と戦ったり原始人に囚われたり……と諸々の冒険を重ねた末、地上に帰還する。
おそらく十年くらいの間を開けて二度目に読むが、内容をほとんど忘れていたこともあり、なかなか楽しく通読できた。
生真面目で素朴でストレート。秘境もの、地底ものがSFとして成立し得た時代の香気がかぐわしくも微笑ましい。こういう作品はぜひ同時代に読みたかったものだ。今にして思うとあまりにヴェルヌの『地底旅行』の影響が大きいが、まあご愛嬌であろう。『地底旅行』と『地底世界ペルシダー』をつなぐ貴重なクラシックとして評価できる。
追記修正:本作は昭和32年に少年少女世界科学冒険全集から出たもの(国立国会図書館デジタルコレクションの個人送信サービスで読める!)が初出で、本書はそのリプリントのようだ。挿絵が武部本一郎の美麗なアートにアップデートされているのは感心だ。