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【経緯】
ドナルド・A・ウォルハイムは、私にとっては“SF編集者”というより“『なぞの第九惑星』の作者”である。当然、同じ趣旨と思われる『土星の環の秘密』と『火星の月の秘密』については一度読んでみたいと思っていた。ところがある日(数か月前)、国立国会図書館の「図書館向けデジタル化資料送信サービス」で「少年少女科学小説選集」が読めることが気づきたので、読んでみた。
【感想・批評】
結論から端的に言えば、どちらもさほど面白いものではなかった――もちろん現代の成人である私の感覚からして面白くない、という意味ではなく、「SFロマン文庫」を愛読していたころの私がこれらを読んだら面白くないと感じただろう、という意味である。
二作品に共通するよろしくない点は次のとおり。
1.プロットの無駄な複雑さ。『なぞの第九惑星』くらいシンプルにできなかったのか。複雑にすることが何の効果も生んでいない。
2.文体や人物像の異常な平板さ。これはこの二作品のみならず、作者・訳者を問わず「少年少女科学小説選集」の多くに見られる特徴なので、編集部ないし監修者(那須辰造)の手により“平準化”が施されているのかもしれない。
3.センス・オブ・ワンダーが感じられない。
もちろん、出版当時の少年読者にとって面白い作品だった可能性を否定するものではない。
【内容紹介】
さて、いちおう内容を紹介しておこう。※数か月前の記憶のみがソースなので、若干の間違いを含む可能性あり。
『土星の環の秘密』
人類がロケットで月や火星に進出している未来。良心的科学者が、月における無茶な採掘活動が月を破壊しかねないと発表するが、悪しき大企業はこれを握りつぶそうとする。科学者は、その学説を証明すべく、衛星の残骸たる環を有する土星系の調査に旅立つ。しかし調査隊には悪しき鉱産会社のスパイも潜り込んでいた。
(※以下、ネタバレ回避のため白文字)
主人公(科学者の息子)らはスパイによる破壊工作に悩まされながらも、なんとか土星系に到達する。しかし主人公と父親は卑劣な策謀により、土星系に取り残されてしまう。窒息死か凍死は時間の問題とも思われたが、彼らは古代の異星人の宇宙船を発見し、地球への生還を果たす。こうして悪は滅び、異星人文明は発見され、月は守られ、物語は大団円となる。
(※以上、ネタバレ回避のため白文字)
『火星の月の神秘』
人類が火星に到達して数十年。政府は火星植民がコストに見合わないとして植民地の撤収を決定する。しかし主人公および父親ら数名の有志が、火星の謎を解明すべく密かに火星に残留する。
火星の謎とは、火星人の遺跡である。どれほど昔のものとも分からないが、今でも全く劣化しておらず、一部は地球人が再活用もできて有用だが、鍵の掛かったドアはどうしても破壊不能という不思議な遺跡である。
(※以下、ネタバレ回避のため白文字)
さて、衛星(※フォボスかデイモスかは失念。)から火星を見張っていた有志たちは、謎のヒューマノイドと接触する。彼らは衛星の地下に暮らしていたのだ。彼らが火星の遺跡の主なのか?
否。卑劣で臆病な彼らは、故郷の惑星を失った宇宙の放浪者だった。彼らは地球人の火星進出を密かに妨害し続けており、それが実って今回の撤収となったのである。敵対する有志たちと放浪者たち。
そんな中、偶然にも遺跡の主たちが帰ってきた。彼らは崇高で英邁な宇宙探検家であり、家に鍵を掛けてちょっと(数千年?)探検に出かけていたのだ。こうして有志たちの活躍により、人類は良き隣人との出会いを逃す愚を犯さずに済んだ。というわけで大団円となる。
(※以上、ネタバレ回避のため白文字)
【追記】
本稿を書いていて知ったのだが、Web上のいくつかのソースによると、那須辰造は野田昌宏の叔父らしい。面白い偶然――ではないな。才気とか環境とか経済力とかを考えると、名士同士が親類なのはむしろ当然のことか。