超常現象趣味というものは、SFとは分かちがたいものだ。わたしもフォーティアナは嫌いではない――もちろん懐疑的な立場から、と言うよりフィクションとして楽しむことにしているのだが。
というわけで、二十世紀における数少ない未解明事件、「ディアトロフ峠事件」考察の“決定版”が出たと聞いて早速読んでみた。
なかなか悪くなかった。しっかりとした取材に基づく質実剛健なドキュメンタリーだ。
結論がいささか取って付けたようで、なおかつパンチが無いようにも感じられるが、冷静に考えると後者は欠点ではない。
そう、事実は小説より奇なりという言葉はあるが、奇だと想像されていた事実は多くの場合平凡なものである。ディアトロフ峠事件の真相も、(本書が推す低周波説が正しいかは神のみぞ知るだが、仮にそうでなかったにしても)平凡なものなのだろう。それを堂々と言い切っているだけでも良質のドキュメンタリーだと言えよう。
期待していたような科学的謎解きの知的刺激は若干足りなかったが、1950年代のソ連の国内情勢が活写されているという点で、社会学的な方面での知的刺激は充分に得られた。
ただしKindle版で2326円は高価に感じる。あまり何度も繰り返して読むような性質の作品でもないので、特段の事情(外出自粛令+図書館封鎖とか)がない限り、図書館で読むのがベターな選択だろう。