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プロジェクト・サイラス・スミスBLOG

ホームページ「プロジェクト・サイラス・スミス」http://projcyrussmith.moto-nari.com/ のブログ部分です。メインのコンテンツ(翻訳したSF)自体はホームページ側にあります。ブログ側にはSFのレビューなどを投稿しています。 ※SF翻訳活動は、実用度の高い機械翻訳の台頭により意義を失ったと考えるため、2021年以降はほぼ休止しています(2021/4/14投稿を参照)。 ※ブログ内のエントリ間のハイパーリンクはまれに切れている場合がありえます。お手数ですが検索機能をご活用ください。

SFロマン文庫を語る 第18回

SF少年文庫/SFロマン文庫の18巻、ウォルハイムの『なぞの第九惑星』を紹介します。
手元にない状態で本稿を書いたので至らない点はご容赦ください。ただし、Project Gutenbergで原書をチラ見して記憶を新たにしてはいます。PGは素晴らしい。

【ビブリオグラフィ > 基本データ】
巻号:18
題名:なぞの第九惑星
原書:The Secret of the Ninth Planet (1959)
著者:ドナルド・A・ウォルハイム
訳者:白木茂
イラストレーター:依光隆
対象年齢:小学校中学年~小学校高学年程度(※レビュアーによる見解)
 
【レビュアーによる評点 (S, A, B, C, D) 】
SF的着想の良さ:B+
小説としての良さ:B+
思い出補正:+0.5段階
総合評価:A
 
【梗概】
近未来。アンデス山脈某所。主人公、アメリカ人高校生バール・デニングは考古学者の父と共に遺跡の発掘をしていた。その日の気温は季節の割には寒かったが、誰も気には留めていなかった。ところが、彼らの下に無人機がメッセージを届けてくる。アメリカ政府からの急報だった。なんと地球から日光が盗まれつつあり、その元凶が彼らのすぐ近くにあると推測されるため調査してくれという依頼だった。指定された座標に向かうデニング親子。果たしてそこには謎のドームがあった。無人のドームに侵入した彼らは謎の装置を停止することに成功し、地球の寒冷化は防がれた。
しかし、「日光盗み装置」は太陽系中に仕掛けられていると判明する。おそらくは異星人の仕業であり、何年も放置するとその悪影響で太陽が爆発する危険性があると判明する。人類は月にしか到達していなかったが、アメリカ政府は、ちょうど開発を進めていた画期的な反重力宇宙船「マゼラン号」を急ピッチで完成させ、「日光盗み装置」を破壊して回るべく遠征隊を送り出す。
バール少年は、アンデスのドーム内で謎の電撃を受けた影響で、異星人の装置を操作できる特異体質になっていた。そのため必須な特殊要員として遠征隊に加わることになる。
【※以下、ネタばれ回避のため白文字】
マゼラン号は技術的トラブルに見舞われつつも水星、金星を訪れ無人ドームの「日光盗み装置」を破壊する。
そして火星。装置は昆虫のような火星人の都市の中に埋め込まれていた。敵は火星人を番犬代わりにしたのだ。バールらは潜入&爆破のミッションに挑み、成功させる。
マゼラン号は木星系、土星系、天王星系を訪れ、衛星に仕掛けられた装置を全て破壊する。途中、日光泥棒の鉄アレイ型宇宙船と遭遇し、宇宙砲戦の末これを粉砕する。
また、敵に操られた隊員が船を破壊しそうになる一幕も描かれる。たまたま船外活動をしていたバールが地の利を生かしてこれを取り押さえ、事なきを得る。
敵の本拠地は冥王星と当たりを付けた彼らは、海王星を飛ばして冥王星へ。どうやら冥王星は他の太陽系からやってきた放浪惑星らしい。バールら三人は敵の基地に潜入し、核爆弾を仕掛ける。爆破は成功するが彼らは捕虜になり、トリトンへ。敵は海王星系にも拠点を持っていたのだ。そこは銀河系中の知的生命が捕らわれた動物園だった。バールは海王星人の決死隊と共闘し、動物園も解放して手勢を増やし、遂には冥王星人を打倒する。
こうして太陽系の危機は防がれ、人類は海王星人や他星系人と友好的な関係を築くのだった。
【※以上、ネタばれ回避のため白文字】
 
【感想・評価・解説】
純朴でストレートな児童SFです。太陽系の全惑星を一冊で紹介するという教育的作品でもあります。まあ、他愛ない作品と言ってしまえばそうなのですが、そのコンセプトの範囲内ではしっかり書けているのではないでしょうか。また叢書の趣旨からすると、全体のバランスを考えるとこの種の作品が一定数入っているのは悪くないと思います。
白木茂の訳文、依光隆のイラストも申し分なし。
 
実は、私事ながら本書はレビュアーが恐らく二番目に読んだSF小説であり、非常に思い入れの深い作品なので冷静に評価できていないかもしれません。当時の自分にとって、本書はまさにどストライクでした。一冊目に読んだ『宇宙怪獣ラモックス』はもちろん傑作でしたが、当時の自分には理解し切れない面もありました。それに比べて本書は完璧に自分の知的レベルに適合していたのです。今にして思えば一冊目で『宇宙怪獣ラモックス』、二冊目で本書という半ば偶然による読書順序が無ければ私は引き続き本文庫を読み続けることが無く、SF者になるのも2・3年は遅れたかもしれません。
 
isfdbによると、本書はデイヴィッド・グリンネル名義でなくドナルド・ウォルハイム名義で発表されています。ひょっとすると、一般向けSFはウォルハイム名義、少年向け寄りの娯楽SFはグリンネル名義、完全な児童向けはウォルハイム名義……のような住み分けがあるのかもしれませんね。本書と同様のウォルハイム名義の児童向けSFは数冊あるようで、うち『土星の環の秘密』と『火星の月の神秘』はかの石泉社/銀河書房の少年少女科学小説選集から訳出されていますが、残念ながらレビュアーは未読です。グリンネル名義作品も何冊かは邦訳されていますが、レビュアーは白背から出た『百万年後の世界』が好きですね。

追記:『土星の環の秘密』と『火星の月の神秘』、読んでみました。
 
【ビブリオグラフィ > 異版情報】
SF少年文庫→SFロマン文庫→SF名作コレクション(邦題変更なし)。
平成版にこれが採用されているのは若干意外。ただしイラストは例によって今一つ。コンセプトや時代の違いがあるので単純な比較は不当かもしれないが、どう見ても依光隆の素晴らしいイラストよりは一枚も二枚も格は落ちる。
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