ここ最近の《未来史》復習の流れで久しぶりに再読。
やはり面白い。ハインライン・ジュブナイルの中では地味な方だが独特の魅力、深みがある。主人公にも好感が持てる。
さて、本作は《未来史》に属すると言われたり言われなかったりするがどういうことだろうか。
肯定の根拠はやはり「地球の緑の丘」だろう。作中では誰もが知る名曲のようで何度か主人公により演奏されるが、特に15章では歌唱もされ、「わが生をうけし地球に、いまひとたび立たせたまえ……」という歌詞が『地球の緑の丘』中に登場するものと合致する。
しかし冷静に読むと否定的な材料も見つかる。例えば年代だ。地の文で
(A)ガニメデのテラフォーム開始は1998年であること(1章)
(B)ガニメデのテラフォームが五十年以上続けられていること(12章)
が述べられているので、Bを五十年以上六十年未満だとすると作中年代は2050年代頃と考えられる。「もしこのまま続けば」が2070年頃とされているので、2050年代はバリバリの暗黒時代のはずである。しかし作中世界の情勢はむしろ暗黒時代到来前のように見える。18章でのポール氏の予見(アメリカや惑星間で戦争・暴動・動乱・革命が起きて惑星間航行が途絶すること)は「かつて一度あったことが再度起きる」というより「まだ一度も起きていないことが初めて起きる」という口ぶりに感じられる。
「帰還しなかった最初の恒星間宇宙船スター・ローバー1号」と「建造中のスター・ローバー3号」の存在が『宇宙の孤児』での設定(2119年のヴァンガード号が最初の恒星間宇宙船であること)と矛盾することも気になる。暗黒時代のせいでスター・ローバーの存在が失伝したとも考えられるが…
総合的に見て肯定説よりは否定説に理がありそうだ。肯定説を採るならAかB、もしくは両方の数字に誤記があると見なして補正を加え、年代を『地球の緑の丘』後かつ神権政治確立前に持ってくる必要があるだろう。あるいは中間的な説として、未来史の正史とはパラレル的な世界(ネヘミア・スカダーが神権政治を確立しなかった世界?)と考えても良いかもしれない。